トロピカルカクテル
続いて冷蔵庫を開けて、牛乳、ざくろジュース、パイナップルジュースを取り出した。
くだものはオレンジにレモン、それとパイナップルを出した。
くだものナイフでさっくりとオレンジを輪切りにすると、果汁を絞るためにスクイザーを用意して、ぎゅっと果肉を絞り出した。苦味まで混ざらないように白い部分は避けて、丁寧に絞る。レモンもさくっと輪切りにする。
それらを用意するとシェーカーに氷を二個入れ、カットしたパイナップルだけは別にして、残りを計量スプーンで量った。
オレンジの絞り汁は全部入れて、ざくろジュースはカップ二分の一、牛乳は大さじ二分の一、パイナップルジュースは、大さじ三、レモンは絞って大さじ一をきっちり量る。
これらを零れる事もなくてきぱきとやってのけた。
氷が溶け出さないようにと、素早い動きだった。
ストレーナーとトップをしっかりはめると、素早く手に持ってリズミカルに振り始めた。兄とスピードは比較にならない。
何回か振ってから、背が低く円筒形に近い小型のタンブラーに注いだ。
ざくろの赤い色とパイナップルなどの黄色が混じったカクテルがなみなみとグラスを満たしていく。最後にパイナップルをグラスにはめ込んだ。
「どうぞ」
差し出された明るいピンクオレンジ色のカクテルにそっと手を伸ばした。
「いただきます」
よく冷えたグラスに口をつけると、パイナップルとオレンジ、レモンの新鮮な匂いがした。ごくりの飲むと冷たいジュースが喉越しを滑っていく。
牛乳のやわらかい味とざくろのほのかな甘味もあっていた。すべてが混ざり合って一つになっている。
美味しさに目を瞠った。
「トロピカルカクテル。飲みやすいでしょ」
茂樹がにっこり笑った。
その笑みを見たとたん、祥太は、鼻がツンとした。
「あ……」
不意に涙が出る。
「し、祥太……」
兄が驚いた顏で見ている。
「ごめ……っ」
涙が溢れてくる。
「ごめ、ごめんなさいっ」
泣くまいとしたが、口いっぱいに広がっている甘い匂いがたまらない気持ちにさせる。
兄はおろおろしていたが、茂樹はカウンターを出てきて祥太の頭を優しく撫でた。
「大丈夫?」
茂樹のカクテルがまずかったのではない。
そう言いたかったが、声が出せない。
「祥太、大丈夫か?」
兄は心配していたが、アルバイトに出かける時間になり、追い払われるように出かけた。
残った茂樹は仕事が休みだからと言って、祥太が落ち着くまでそばにいてくれた。