↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
路傍の石  作者: マグガネ
PR
8/11

第八話

分析を取得してから、数日が経った。相変わらず赤髪は、毎日のようにPVPに現れて戦いを楽しんでいる。




「平和だな」




『そうだな』




『最前線組はひたすらレベル上げで忙しそうだけどな』




『最初の街はだいぶ人が少なくなったよね』




「確かに。全然プレイヤーの姿が見えんな」




周囲を見渡す。プレイヤーを示す緑アイコンはまばらで、そのほとんどはPVPエリアに集まっているようだった。




こんなにプレイヤーが少なくなったのには理由がある。どうやら、新しい街が解放されたらしい。新しい街では、より強力な武器や防具、新しいアイテムなどが取り揃えられている。当然、プレイヤーたちはそちらへ押し寄せる。その結果、始まりの街は以前とは比べものにならないほど閑散としていた。




そんな噴水広場に、光の粉が舞い始めた。




「あれは......」




確か、新しいプレイヤーが街にやってきたときに出るエフェクトだ。舞っていた光の粉が一点に集まり、強く発光する。そして、その光の中から現れたのは――。




「おぉ、気合の入ったプレイヤーが来たな」




そこにいたのは、一匹のオオカミだった。




『獣系か。センスいいな』




『でも、話せないのはやっぱりきついよなぁ』




「それな。俺が言えることじゃないけど」




『加えて移動までできないからな、あんた』




『より高度な縛りプレイなんよ。あなた』




『人の振り見て我が振り直せよ』




『お前、その言葉の意味理解してないだろ』




「俺だって直せたら直してぇよ。おっ、オオカミが動くみたいだぞ」




新しくやってきたオオカミは、周囲をきょろきょろと見渡している。何だ?こちらをじっと見ているような気がする。




「......なんか、こっちに歩いてきてない?」




オオカミは、音もなくこちらへ近づいてくる。




「おい、これどうすればいい?」




『どうすればって、あんた何もできないでしょうよ』




『ビビってて草なんよ』




コメントはもっともだ。俺は動けない。何もできない。だったら、どんと構えているしかない。




そう考えている間にも、オオカミはどんどん近づいてくる。二メートル。一メートル。そして、とうとう目の前まで来た。獣なのににおいは全くないんだなと見当違いのことを考えていた。




「......近くで見る狼って、怖いんだな」




思った以上に大きい。俺が石じゃなかったら、普通に腰が引けていたかもしれない。




「おい、なんだ? 何か用か?」




もちろん、ゲーム内では声は出ていない。配信には俺の声が乗っているが、ゲームの中ではただの石だ。




オオカミは立ち止まり、こちらをじっと見つめている。そして――。ゆっくりと頭を下げた。




「へ?」




突然の行動に、変な声が出た。頭を下げたオオカミは、そのまま何事もなかったかのように立ち上がる。そして、スタスタとどこかへ歩いていってしまった。




「......なんだったんだ、あれ?」




『もしかしたら視聴者じゃね?』




『まあ、そう考えるのが妥当か』




「いや、そんなことある?」




自分のチャンネルの視聴者はまだ二桁いればいい方だ。そんな奴に会いに来てくれる奴なんているだろうか。




『むしろ、ただの石のお前にあんなことするやつがいるか?』




『そうだよな。だって普通の石だぞ』




『俺、前にゲーム内で見たけど、遠くから見たら普通の石だったぞ』




「......そうか。それなら、本当に視聴者だったのかもな」




これが噂に聞く「凸」ってやつだったのだろうか。実際、配信者が募集などをしていない限り、こうして会いに行くのはマナー違反とされることもある。




だが――。本当に視聴者がいてくれた。そして、わざわざ俺に会いに来てくれた。その事実が、どうしようもなく嬉しかった。




『ここの視聴者って結構少ないから、誰か分かりそうだよな』




『まあ、特定はできそう』




『というか、なんとなく想像つくだろ』




『まあ、あいつだろうな』




『......うん』




そんな感傷に浸っている俺とは裏腹に、コメント欄では誰があのオオカミだったのか、すでに話がまとまりつつあるらしい。




「そういや、あんなアバターにするような奴、誰かいたっけな......」




よく来てくれている視聴者の名前を思い浮かべていく。




- サン社員


- +堕天使日出夫+


- 灯ノ森灯火


- 獣になってハッスルし隊長


- 社竹




「......うん」




俺は小さく頷いた。




「たぶん、あいつだろうな」




そして、少しだけ笑う。




「なんて言っていいか分からないけど......夢、叶えてそうでよかったな」




『『『うん』』』




その瞬間、コメント欄が不思議なくらい静かになった。そして、ぽつぽつと流れていくコメントを見ながら、俺は奇妙な感覚に包まれていた。たった一匹のオオカミ。たった一度の挨拶。それだけなのに――。この瞬間だけは、画面の向こう側にいる誰かと、本当に繋がっているような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。