第五話
朝起きて、食事を取りながら考える。人に来てもらうためには、何か対策が必要だ。言葉にすれば簡単だが、これが難しい。
これは持論なのだが、配信を見る基準というのは人それぞれだと思う。しかし、その多くは「人気があるから」「好きな配信者だから」という理由で見る人が大多数を占めているのではないだろうか。人気のある配信者はさらに数字を伸ばし、数字の少ない配信者には視聴者が流れにくい。そうなると、すでに先行している人気配信者と同じことをしても太刀打ちできない。
だが、その点では俺の配信は他との差別化ができている。何しろ俺は動けない。つまり、定点カメラ化している。これは、ある意味で好都合だ。配信にもASMRや旅動画など、特定の層に向けたマニアックなものが存在している。その中でも「定点カメラ」には一定の需要がある。
ここで、メリットとデメリットを考える。メリットとしては、ゲーム配信として検索した場合、上位に来ることは難しい。しかし、「定点カメラ」として検索した場合なら、競合が少ない。少ない人数でも検索上位に来やすくなり、人の目に留まる可能性も高くなる。デメリットは、そのパイ自体が小さいこと。つまり――伸びにくい。
そんなことを考えてはいるが、現状で変えられることなんて、たかが知れている。そうなると重要なのは――。配信タイトルとサムネイルだ。まずは配信タイトル。「定点カメラ」という文言を入れて配信してみよう。
そう判断すると、【定点カメラ】始まりの街・噴水広場【路傍の石】と題して配信を開始した。開始から一時間。やはり視聴者は現れなかった。まあ、気長に待つしかない。
観察していると、本当にいろいろな種族がいるなぁ。あれはなんだ?人体模型?骸骨までいる。......なんか煙が出ているけど、大丈夫なんだろうか。あのタンブルウィードは、さすがにプレイヤーじゃないよな。......いや!あれ、プレイヤーだ。上に緑色のアイコンが表示されている。俺は動けないけど、あの人も自分の意思では自由に動けないようだ。あれはあれで、かなり苦労してそうだな。
NPCも結構いる。NPCには青色のアイコンが表示されているから、プレイヤーとの見分けもつきやすい。こうして観察しているだけでも、なかなか面白いものだ。そんな風にまったりと街を眺めているうちに、いつの間にか深夜になっていた。
その時だった。視界の端で、何かが動いた。
『何この配信?』
初めてのコメントが書き込まれる。
「おっ、初コメント。いらっしゃい。今、始まりの街で定点カメラやってます」
『モンスター狩りに行ったりせんの?』
「いやぁ......それが、できないんすよね」
『縛りプレイでもしてんの?』
「それが......俺の種族、石なんすよね......」
『???????????』
「この定点カメラの位置、かなり低いでしょ? これで察してもらえるかと思うんですけど......本当にただの石なんですよ、俺」
『マジで石なんか(呆れ)』
「はい......。なので、このアカウント名も『路傍の石』って名前にしてるんです」
『はえ~。せっかくのVRMMOで特殊なプレイしてるやつもいるんやな』
「俺の場合は、ちょっとした不慮の事故だったんですけどね......」
『何があったんや』
「話すと長くなりますよ?」
『こっちも暇やから教えてくれや』
「......仕方ないですね」
俺は少しだけ間を置いてから、これまでの経緯を語り始めた。
「語るも涙、聞くも涙の物語。聞かせてあげましょう」
『なんやその前振り』
「俺、この世界で医師になりたかったんですよ。それでキャラクターを作るときに、ジョブのところへ『医師』って入力したんです。
『うん』
「そしたら誤変換で『石』になってまして」
『草』
「しかも、それに気づいたあと、訂正しようとしてNOを押そうとしたんですよ」
『うん』
「でも、いつもの癖で右側を押しちゃったんですよ」
『......まさか』
「はい。そのまま決定されて、石になりました」
『ただのアホやんけwww』
「いやいや、俺は医師を目指してたんですよ?」
『結果、石になっとるやんけwww』
「そこは......まあ......はい」
『誤変換だけでこんな苦労してんのおもろい』
「俺にとっては笑い事じゃないんですけどね......」
『でもなんでそんな状態で配信しとるん?』
「......それはですね」
俺は一瞬だけ言葉に詰まった。
「他に、やることがないからです」
『悲しすぎて草』
「俺もそう思います」
そう言って、俺は再び噴水広場を眺めた。たった一人。それでも、さっきまで誰もいなかった画面にコメントが流れている。それだけで、少しだけこの場所にいることが楽しくなった。




