第四十九話
黒装備の冒険者たちを調べるなら、あの大剣の男からだ。
俺は炎児とサン社員にそう伝えた。
「確か、サン社員が森で遭遇したやつだったな」
「ええ。仲間が不用意に情報を漏らさないよう注意していた方ですね」
「つまり、黒装備連中のまとめ役ってところか」
「そう考えるのが自然だろうな」
もちろん、あの男が黒装備の冒険者たちを取りまとめているからといって、すべての行動を指示しているとは限らない。
まずは本人の情報を集める必要がある。
「俺たちだけで探すより、向こうの仲間に聞いてみるか」
炎児の提案に、俺たちは頷いた。
サン社員が以前見つけた、リーン伯爵領の酒場。そこなら黒装備の冒険者たちが集まっている。
「あれ? そういえば、炎児ってあの町に行けるようになったん?」
「言ってなかったか? 前に、ソラ一日配信休んだだろ。そん時にちょっと行って開通しておいたんだよ」
「そうだったのか」
俺は配信を続けながら、二人の調査を見守ることにした。
酒場に着いたサン社員たちは、店内を見回した。
「いました。黒装備の方々が何名かいますね」
配信画面越しに確認すると、確かに黒い装備を身につけた冒険者たちが酒場の一角を占めていた。
彼らは店員のNPCと談笑し、料理を注文している。
「大剣の男はいないな」
本人がいれば手っ取り早かったが、そんなにうまくはいかないか。
それでも、何も聞かずに帰るわけにはいかない。
サン社員も同じことを考えていたのか、近くにいた黒装備の冒険者へと声をかけた。
「少しよろしいですか? あなた方の仲間で、大剣を持った方について伺いたいのですが?」
話しかけられた男は怪訝そうな顔でサン社員を見ている。
「……あいつに何の用だ?」
「以前、森でお会いしましたので、少しお話をしたく」
「なら、本人に聞けばいい」
そう言うと、男は仲間たちに目配せして、そのうちの一人が立ち上がり、酒場の外へ出ていく。
簡単に会えそうで少し拍子抜けだ。
しばらくして戻ってきた男は、サン社員に告げた。
「ついてこい。会うそうだ」
……向こうから会う機会を用意してくれるのか。
罠の可能性もあるが、ここで避けていては先に進めない。
『サン社員、炎児、警戒はしておいてくれ』
『わかってる』
二人は男の案内に従い、町の外れへと向かった。
町の外れには、大剣を背負った男が一人で立っていた。
「久しぶりだな。いや、初めましての方がいいのか?」
男はサン社員を見るなり、そう言った。
「まあ、そんなことはどうでもいいか。森で逃げ切られて以来でいいんだよな?」
「……あのときは、どうも」
サン社員が警戒を崩さずに答える。
炎児が一歩前に出た。
「あんたは黒装備の連中をまとめているのか?」
炎児が本題に切り込んだ。
「そう見えるんだろうな」
「否定はしないんですね」
「事実と違うことを言う必要もないからな」
男は淡々と答えた。
「だが、勘違いするな。あいつらにはあいつらの目的がある。俺は、そいつらの行動を利用しているだけだ」
やはり、黒装備の冒険者たちは誰かに操られているわけではないらしい。
では、この男は何のために彼らを利用しているのか。
「利用して、何をするつもりだ?」
「あいつと話して……いや、やり取りして大体察しはついてるだろ? お前たちプレイヤーが行動し、条件を満たし、イベントが進行する。そのために必要なことを実行する。それが俺の役割だ」
イベント。
その言葉に、俺は意識を集中させた。
侯爵に報告した直後、誰の指示もなく更新されたクエスト。あのときから、ゲーム内の出来事を動かしている存在が別にいる可能性を考えていた。
そして、目の前の男は今、イベントを進行させることが自分の役割だと言った。
『お前は何者なんだ?』
俺はコメント欄に質問を書き込む。
男は配信を見ているかのように、こちらへ視線を向けて指をさす。
「おい見てんだろ? お前はただの石じゃないな。動けず、話せず、それでも観察して情報を集め、ほかのプレイヤーを動かしている」
……俺のことも把握しているのか。
俺はすぐさま【観察】を使った。
対象:???
成長段階:???
【対象情報は取得できません】
取得できない?
これまで観察してきたが、こんな表示が出たことはなかった。
『お前、プレイヤーじゃないのか?』
コメントを送ると、男は小さく笑った。
「察しがいいな」
そして、あっさりと答えた。
「俺は、このイベントを実行するために配置されたAIだよ」
……AI。
つまり、プレイヤーでもNPCでもない。イベントを進行させるために存在する、ゲーム側の存在ということか。
「なら、黒装備の連中もお前が動かしているのか?」
炎児が問いただす。
「さっきも言ったはずだ。連中には連中の目的がある。俺が直接指示しているわけじゃない。だが、連中の行動がイベントを進めるうえで都合がいい。それだけの話だ」
「進化条件についても、何か知っているのか?」
「知っていることはある。だが、すべてを教えるつもりはない」
男はそう言って、俺たちを見回した。
「お前たちが自分で調べ、考え、行動することにも意味がある。俺が何もかも説明してしまえば、イベントを進める意味がなくなるだろう?」
……なるほど。
こちらに情報を与えすぎず、かといって完全に手詰まりにもさせない。そうやって、俺たちをイベントへ誘導しているのか。
『最後に一つ聞きたい』
俺はコメントを送った。
『この一連の出来事を起こしているのは、お前なのか?』
男は少しだけ沈黙した。
「俺はイベントを実行する役割を持っている。だが、イベントに関わるすべての出来事を、俺一人が起こしているわけじゃない」
それ以上、男は何も語らなかった。
「知りたいことがあるなら、自分で調べろ。お前たちなら、まだ先へ進めるはずだ」
男はそう言い残し、町へと歩き出した。
俺たちは、その背中を黙って見送るしかなかった。




