第五十話
「ソラさん」
サン社員が声をかけてきた。
「そろそろ、侯爵様に報告した方がいいと思います」
「ああ。そうだな」
これ以上、ここで考えていても仕方がない。
分かったことを報告するため、始まりの町へ戻り侯爵のもとへ向かった。
「……なるほど。黒装備の連中の目的とその大剣の男の目的は違い、その男は何かを進めるために動いているのか」
俺たちの報告を聞いた侯爵は、難しい顔で腕を組んだ。
「はい。ただ、男が具体的に何をしようとしているのかまでは分かりませんでした」
サン社員が答える。
「彼らはリーン伯爵領では住民と友好的に接している一方、始まりの町では住民に嫌がらせをしていました。その行動の違いには、何らかの理由があるはずです」
「ふむ……」
侯爵はしばらく考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「冒険者たちが何を目的に行動しようと、それ自体を咎めるつもりはない。だが、その結果として住民が被害を受けているのなら、話は別だ」
「はい」
「引き続き調査を頼みたい。彼らの目的が何であれ、この町で何が起きているのかは明らかにしてほしい」
「分かりました」
これで、ひとまず報告は終わりだ。
そのときだった。
視界の端に、見慣れた通知が表示された。
【クエスト:陰謀を暴け】
【一連の出来事に関する情報が一定量に達しました】
【イベント進行条件を確認】
【次の段階へ移行します】
「……え?」
思わず声が漏れる。
『ん?』
『またクエストが更新された?』
『侯爵から新しい依頼は出てないよな?』
「どうした?」
侯爵が怪訝そうにこちらを見た。
「いえ……今、クエストの表示が変わりまして」
「クエスト?」
侯爵は眉をひそめた。
俺は表示された文章をもう一度確認するが、システムは次の段階へ移行したと告げている。
『情報が一定量に達したってことは、調査が進んだからか?』
『イベント進行条件って何だよ』
『次の段階って、何が始まるんだ?』
これまでの調査で、何かの条件を満たしたのだろうか。
それとも、俺たちが知らないところで別の何かが進んでいたのか。
「……何が起きるんだ?」
そう呟いた直後だった。
屋敷の外から、慌ただしい足音が聞こえてくる。
「何事だ!」
侯爵が声を上げる。
その声に応じるように、兵士が部屋へ飛び込んできた。
「ご報告します! 町の外に多数の魔物が出現しました!」
「何だと?」
「魔物の群れが町へ向かって進行しています! 数が多く、通常の巡回部隊だけでは対処できません!」
侯爵の表情が一変した。
「すぐに防衛の準備を整えろ! 冒険者ギルドにも連絡を! 住民の避難誘導も急げ!」
「はっ!」
兵士は一礼すると、慌ただしく部屋を飛び出していった。
その直後、俺の視界に新たな通知が表示された。
【緊急イベント】
【イベント:始まりの町防衛戦】
【発生条件を満たしました】
【冒険者は協力して町を防衛してください】
「……防衛戦、か」
俺は呟いた。
町の外から、鐘の音が響き渡る。
住民たちの悲鳴。
兵士たちの怒号。
武器を手に走り出す冒険者たち。
先ほどまで静かだった町が、一瞬にして騒然となった。
『うわ、レイドイベントか!?』
『急に始まったぞ!』
『さっきのクエスト更新と関係あるのか?』
『これ、失敗したら町がどうなるんだ?』
「分からない……」
俺は町の外へ続く道を見つめた。
町に魔物が迫っている。
ここで防衛に失敗すれば、住民たちに被害が出るかもしれない。
「ソラさん、どうしますか?」
サン社員が尋ねる。
俺自身は動けない。
武器を持って戦うこともできない。
それでも、何もしないわけにはいかなかった。
「……配信を続けよう」
「配信、ですか?」
「ああ。町の外の状況を確認して、分かったことを共有する。俺たちだけじゃ戦えなくても、情報を集めれば誰かの役に立つはずだ」
『了解!』
『外にいるプレイヤーに情報を流そう』
『こっちでも状況を確認する』
コメントが次々と流れていく。
俺は配信画面を通して、町の様子を確認した。
冒険者たちが町の門へ集まっている。
だが、数が少ない。
その原因には心当たりがあるが、今は愚痴を言っても仕方ない。
兵士たちは防衛の準備を進め、住民たちは安全な場所へと誘導されていた。
その先には、まだ姿の見えない魔物の群れが迫っている。
「……みんな、気をつけてくれ」
俺は画面を見つめながら呟いた。
始まりの町防衛戦。
それが、俺たちの調査していた事件とどう関係しているのかは分からない。
ただ、システムはこれを次の段階だと告げた。
ならば、この戦いもまた、一連の出来事の一部なのだろう。
「よし……状況を確認するぞ」
俺たちは配信を通じて情報を集め始めた。
町を守るために。
そして、この事件の真相に近づくために。




