第四十七話
「……日出夫、今いるか?」
俺はコメント欄に問いかけた。
『いるんじゃね?』
『いつもいるしな』
『日出夫さーん!』
コメント欄に、日出夫を呼ぶ声が流れていく。
しばらく待っていると、一つのコメントが表示された。
『読んだ?(´・ω・`)』
……来た。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
『うん、何かな?(´・ω・`)』
「そう。今まで色々と情報を教えてくれただろ?」
『うん、うん(´・ω・`)』
「侯爵のこととか、リーン伯爵のこととか。貴族の階級や家紋についても詳しかったよな」
『人並みには詳しいと思うよ(´・ω・`)』
相変わらず、落ち着いた返事だった。
「それって、どこで調べたんだ?」
『なんでそんなこと聞くの?(´・ω・`)』
「いや、単純に気になったんだよ。俺たちが調べようとしていることを、ちょうどいいタイミングで教えてくれることが多かったからさ」
『偶然だよ(´・ω・`)』
「……偶然ねぇ」
確かに、そう言われればそれまでだ。
貴族の歴史に詳しいプレイヤーがいてもおかしくはない。俺たちが調べていることを配信で知って、先回りして情報を集めていた可能性だってある。
でも、それなら一つ疑問が残る。
「日出夫って、俺たちが調査している間も、ずっと配信を見てたよな?」
『うん(´・ω・`)』
「その間、いつ調べてたんだ?」
『もちろん、配信見ながらだよ(´・ω・`)』
「まあ、それはそうか」
俺はひとまず納得した。
だが、コメント欄はそうでもなかったらしい。
『今ちょっと間がなかった?』
『いや、考えてただけだろ』
『時間があるのは分かるけどさ』
『なんか怪しいな』
「お前ら、疑いすぎだろ」
そう言いつつも、俺自身、疑念が消えたわけではなかった。
そこで、もう一つ質問してみることにした。
「じゃあさ。侯爵家の家紋について、どうしてあんなに詳しかったんだ?」
『家紋?(´・ω・`)』
「そう。俺たちが話題に出したとき、すぐに答えてくれただろ?」
『知ってたからね(´・ω・`)』
「どこで?」
少しだけ間が空いた。
そして。
『ゲームの中だよ(´・ω・`)』
「ゲームの中?」
思わず聞き返した。
『うん(´・ω・`)』
『ゲーム内で調べたってこと?』
『そんな情報あったっけ?』
『リーン領の図書館にも家紋の説明があったやつか』
『そうだよ、図書館の本だよ(´・ω・`)』
『え……でも……』
コメント欄がざわつき始める。
俺も同じことを考えていた。
日出夫は、俺たちの調査に同行していない。それなのに、俺たちが知る前から、色々な情報を持っていた。
もちろん、別の場所で調べていた可能性はある。
だが。
「……日出夫ってさ」
俺は慎重に言葉を選ぶ。
「このゲーム、どれくらいやってるんだ?」
『サービス開始からだよ(´・ω・`)』
「最初から?」
『うん(´・ω・`)』
それなら、知識が豊富なこと自体は説明できる。
ただ、別の疑問が生まれた。
「でもさ。始まりの町の領主。侯爵の紋章はどうやって知ったんだ?」
『それはもちろん図書館でだよ(´・ω・`)』
「でも、始まりの町に図書館ってないよな?」
日出夫からの返信が止まった。
「それに、街中にも侯爵の紋章ってないんだよ」
『流れの途中で悪いけど、さっきの図書館の話。その本見たけど、伯爵の紋章しか載ってなかったよ』
「だってさ、日出夫」
俺はコメント欄を見つめる。
やがて、コメントが流れてきた。
『ソラさん(´・ω・`)』
「ん?」
『何が知りたいの?(´・ω・`)』
『え?』
『唐突にどうした?』
『普通に聞いてるだけかもしれん』
「何が知りたいとかじゃないんだ。ただ、今までのことを振り返ってたら、ちょっと気になっただけでさ」
『そうなんだ(´・ω・`)』
日出夫は、いつもと変わらない調子で返した。
『じゃあ、一つだけヒント(´・ω・`)』
「……何?」
『調べていることは、間違ってないよ(´・ω・`)』
「……は?」
思わず声が漏れた。
『けど、まだ見えてないことがあるよ(´・ω・`)』
「それって、どういう意味だ?」
『そのままの意味だよ(´・ω・`)』
「いや、だから――」
『ソラさん』
日出夫のコメントが、再び表示される。
『がんばってね』
今までの調査が正しい?
まだ全体が見えていない?
「……日出夫、お前、何を知ってるんだ?」
俺はそう呟いた。
俺がさらに質問しようとしたとき、コメント欄に別の書き込みが流れた。
『てか、日出夫って今どこにいるん?』
その質問を見て、俺も気づいた。
そういえば、日出夫がどこで何をしているのか、俺は知らない。いつも配信に現れて、必要な情報を教えてくれるだけだった。
「……日出夫、今どこにいるんだ?」
『それは、秘密だよ(´・ω・`)』
「秘密って……」
『じゃ、見てるからね(´・ω・`)』
それを最後に、日出夫からのコメントは途絶えた。
『逃げた?』
『絶対なんか知ってるだろ』
『これは怪しい』
『でも、まだ黒幕とは限らないんだよな』
「……そうなんだよな」
日出夫は、俺たちが調べている事件について、俺たちの知らない何かを知っている。
なら、最後まで調べるしかない。




