第四十六話
クエストが更新されてからしばらくの間、俺たちはこれまで集めてきた情報を整理していた。
始まりの町。
リーン伯爵領。
黒装備の冒険者。
冒険者たちをリーン伯爵領へ誘導する行動。
そして、そこで集められている冒険者たち。
どれも繋がっているようには見える。
いや、正確には、繋がっていることだけは分かる。
問題は、その先だった。
「……結局、何が目的なんだ?」
俺は噴水広場から周囲を眺める。
『進化だけじゃ説明つかないしな』
『リーン伯爵が黒装備を利用してる可能性もある』
『でも証拠がない』
『そもそも黒装備が何をするつもりなのか分からん』
コメント欄にも、これといった答えはない。
「だよなぁ……」
俺たちはかなりの情報を集めてきた。
それなのに、決定的な手掛かりがない。
黒装備の連中が進化の条件を知っていたこと。
リーン伯爵領では、彼らがNPCと良好な関係を築いていること。
始まりの町では、逆にNPCとの関係を悪化させていること。
そして、新しく来た冒険者をリーン伯爵領へ誘導していること。
ここまでは分かっている。
だが、それらを繋げた先に何があるのか。
「……分からない」
そう呟いたときだった。
『そういえばさ』
コメントが一つ流れていく。
『今回の調査で、一番情報くれたのって誰だ?』
「……情報?」
俺はそのコメントを読み返す。
『侯爵は必要なことしか話してないし』
『サン社員は現地調査』
『炎児も始まりの町での聞き込みとか』
『隊長も最初の方協力してくれたよな』
『あとは……』
俺は考える。
そして、一人の名前が浮かんだ。
「……日出夫?」
『あー』
『確かに』
『でも、そこまでじゃなくない?』
『あいつ詳しいよな』
『貴族関係とか異常に詳しい』
『地味だけど一番貢献してんじゃね』
「……」
言われてみれば、確かにそうだった。
侯爵について調べていたときも、貴族の階級について知りたかったときも、リーン伯爵のことを調べていたときも、家紋について話していたときも。
そのたびに日出夫は、俺たちが必要としていた情報を持っていた。
でも。
「……ちょっと待て」
俺はそこで、あることに気づいた。
「日出夫って……いつ調べたんだ?」
『……?』
『確かに』
『いつも配信にいて、そんな時間なさそう』
『いや、調査の片手間に見てたとかじゃない?』
侯爵家やリーン伯爵家の歴史も知っていた。
貴族の階級にも詳しく、家紋まで知っていた。
「……おかしくないか?」
『言われてみれば』
『攻略サイトとか見てるとか?』
『そういうのが好きなだけじゃない?』
『でも、ゲーム内の細かい情報まで知ってるのはなぁ』
「そうなんだよ」
ただ知識が多いだけなら、それほど不思議ではない。
このゲームをやり込んでいるプレイヤーなら、俺たちより詳しいことだってあるだろう。
問題はそこじゃない。
「日出夫って、いつも俺たちが必要になったタイミングで情報を出してるんだよな」
最初からそうだった。
俺たちが次に何を調べるか迷っているとき。
何かの情報が必要になったとき。
まるで、それを知っていたかのように日出夫が情報を持ってくる。
「……偶然にしては出来すぎてないか?」
『確かに』
『必要な時に必要な情報を出してる』
『ただ複数の人の配信を複窓してるだけじゃない?』
『これ怪しくね?』
俺は黙って、これまでの日出夫との会話を思い返す。
そこで、もう一つ気づいた。
「……そういえば」
俺たちが侯爵の家紋について話していたとき。
日出夫は、ほとんど迷うことなく答えていた。
あのときは、ただ詳しいやつなのだと思っていた。
「なんで、そこまで知ってたんだ?」
俺は小さく呟く。
そして、過去の出来事を思い出す。
侯爵への報告。
その直後に更新されたクエスト。
【一連の出来事を引き起こしている存在を特定せよ】
あのとき、俺は考えた。
ゲーム側が俺たちの行動を見ているのではないか、と。
「……」
もし、ゲーム側に俺たちの行動を把握している存在がいるのだとしたら。
そして、その存在と日出夫が繋がっているのだとしたら。
「……いや」
俺は首を振る。
まだ決めつけるのは早い。
日出夫が何者なのか。
ゲーム側と関係があるのか。
それすら分かっていない。
「……一度、本人に聞いてみるか」
『直接聞く?』
『怪しすぎる』
『日出夫、何者なんだ』
『別に何者でもないだろ』
『これでただの物知りだったら笑う』
「それはそれでいいだろ」
俺は苦笑する。
ただ、胸の奥に残った違和感は消えなかった。
俺たちがこれまで集めてきた情報。
その中には、日出夫から教えられたものがいくつもある。
そして、その情報がなければ、俺たちはここまで辿り着けなかった。
「……もしかして、俺たちは最初から誰かに案内されてたんじゃないか?」
コメント欄が一気に流れ始める。
『それだ』
『日出夫が案内役だったってこと?』
『考えすぎだろw』
『でも何のために?』
『そもそも日出夫は何者なんだよ』
「……それを確かめよう」
今まで何度も俺たちに情報をくれた男。
その情報が正しかったからこそ、俺たちは疑うことすらしなかった。
だけど、もし、その情報がすべて俺たちをある場所へ導くためのものだったとしたら。
確かめる方法は、一つ。
「……日出夫、今いるか?」
俺はそう視聴者に問いかけた。




