第四十五話
翌日、サン社員と炎児は、再び侯爵の屋敷を訪れていた。
「また来たのか」
二人を見るなり、侯爵がそう言った。
「すみません。ちょっと報告したいことがありまして」
「黒装備の冒険者についてか?」
「はい」
侯爵は少しだけ表情を引き締める。
「話せ」
サン社員が報告を始める。
「リーン伯爵領の酒場で、黒装備の連中が何人も集まっていました」
「何をしていた?」
「詳しい内容までは分かりません。ただ、他の冒険者と話をしていて、その後、その冒険者を連れていく様子も確認しています」
侯爵は黙って俺たちの話を聞いている。
「さらに、始まりの町で新しく来た冒険者に、リーン伯爵領を勧めていることも分かりました」
「……」
「実際、その冒険者はリーン伯爵領へ移動するつもりだそうです」
侯爵は腕を組んだ。
「つまり、黒装備の冒険者たちは、リーン伯爵領に冒険者を集めているということか」
「はい」
「目的は?」
「それが分からないんです。最初は進化が目的だと思っていました」
侯爵から聞いた進化の条件。
黒装備の連中がその情報を知っていたことは、今までの調査で分かっている。
「ですが、それだけじゃ説明できません」
「冒険者を集める理由がない、ということか」
「そうです」
侯爵はしばらく黙り込んだ。
「……なるほど」
「何か心当たりがありますか?」
「いや」
侯爵は首を横に振る。
「私にも分からん」
「そうですか……」
少しだけ期待していたので、肩透かしを食らった気分になる。
「また、何か分かればここに来るがいい」
侯爵がそう言った、そのときだった。
『クエスト【陰謀を暴け】の内容が更新されました』
「……え?」
突然、視界の端に文字が表示された。
『クエストの達成条件が変更されました』
「ちょっと待って」
『何?』
『クエスト更新?』
『今?』
俺は表示された内容を確認する。
【クエスト:陰謀を暴け】
【達成条件】
【始まりの町とリーン伯爵領で発生している一連の出来事について調査せよ】
【黒装備の冒険者たちが何者なのかを特定せよ】
【一連の出来事を引き起こしている存在を特定せよ】
「……なんだこれ」
思わず声が漏れる。
「どうした?」
炎児も同じように呟いたのか、侯爵がこちらを見る。
「クエストの内容が変わりました」
「……クエスト?」
侯爵が怪訝そうな顔をする。
「あ、いや。こちらの話です」
「そうか」
侯爵はそれ以上追及しなかった。
二人はそのまま、侯爵への報告を終わらせた。
俺はもう一度、表示された内容を見る。
「……一連の出来事を引き起こしている存在を特定せよ」
『これ、完全に黒幕探しじゃん』
『推理がそのままクエストになったな』
『でも誰が更新したんだ?』
「そこなんだよな」
これまでは、侯爵のフラグを踏んできたからクエストが表示された。
けれど、今回は違う。
俺たちが報告した内容に合わせるように、ゲーム側のクエストが勝手に変化した。
「……じゃあ、誰が?」
『そこ重要じゃね?』
『侯爵じゃないならゲーム側?』
『誰かがクエストを管理してる?』
今までにも、ゲームのシステムによって説明できないことはいくつかあった。
だが、今回の更新は今までとは少し違う。
まるで、俺たちが集めた情報を、ゲーム側がずっと見ていたみたいだった。
「……」
俺はしばらく黙り込む。
「どうしました?」
サン社員が尋ねる。
「いや……」
俺は首を振った。
「今は考えても分からないな」
少なくとも、今の俺たちには、このクエストを更新した存在を調べる手段がない。
なら、まずは目の前のクエストを進めるしかない。
「とりあえず、やることは決まったな」
『黒幕探し?』
「ああ」
俺は表示されたクエストを見つめる。
「……誰が、何のためにこんなことを仕組んでいるのか」
俺は小さく呟いた。




