第四十四話
新人との話を終えたあと、俺は改めて、今までの情報を整理していた。
黒装備の連中は、新しく来た冒険者にリーン伯爵領を勧めている。
そして、その冒険者は実際にリーン伯爵領へ移動するつもりらしい。
「……だったら、次に調べるべきなのは決まってるな」
『リーン伯爵領?』
「ああ」
俺はサン社員に連絡を取る。
「黒装備の連中が、あそこで何をしているのか調べてほしい」
「分かりました」
サン社員は、そのままリーン伯爵領へ向かった。
俺は噴水広場に残り、サン社員の配信を開く。
しばらくすると、見慣れたリーン伯爵領の景色が映し出された。
『お、サン社員の配信だ』
『現地調査か』
『ソラ動けないからな』
「サン社員には頭が上がりませんよ。あ、それと一応注意喚起だけど、関係ない人の配信で俺の名前出さないでくれよ。マナー違反だからな」
コメントに突っ込みながら、俺は配信画面を眺める。
サン社員は町の中を歩いていき、しばらくすると、以前、黒装備の連中が利用していた武器屋の前で足を止めた。
「ま、最初はここか」
『ああ、前に出てきた武器屋か』
『槍の紋章があったところだな』
「そうそう」
サン社員が店の中へ入り、しばらく店主と話したあと、再び外へ出る。
「黒装備の人たちは、今もよく来るそうです」
「そんな感じだな」
『まだ利用してるんだな』
『リーン伯爵領との関係はかなり深そう』
サン社員は、そのまま町の中を歩いていく。
「そういえば、昨日の新人も武器や防具を勧められたって言ってたな」
『確かに』
『向こうでも同じことしてるのか?』
そのとき、サン社員が足を止めた。
「ここですね」
「何が?」
「冒険者がよく集まっている場所です。先ほどの店で聞きました」
画面には、一軒の酒場が映っている。
「酒場か?」
「はい。冒険者同士の情報交換に使われているそうです」
サン社員が中へ入る。
店内には、かなりの数の冒険者がいた。
『結構いるな』
『普通の酒場じゃん』
『黒装備はいないの?』
「少し探してみます」
サン社員が店内を見回す。
「いましたね」
「え?」
画面の端に、黒い装備をした冒険者が映る。
「黒装備だ」
『いた!』
『普通にいるじゃん』
『何してるんだ?』
黒装備の冒険者は、近くにいた別の冒険者と話をして、しばらくすると、その冒険者を連れて店の奥へ移動した。
「何か話してますね」
サン社員が少し距離を取って、その様子を見ている。
どうやら、装備や狩場について話しているようだった。
「……普通の情報交換だな」
『始まりの町とは大違い』
『NPCを信用するなとか言ってた奴らとは思えんよなぁ』
「そうだな」
さらに見ていると、別の黒装備の冒険者も店へ入ってきた。
一人。
また一人。
気づけば、店の奥には黒装備の連中が何人も集まっていた。
「……」
俺は画面を見つめる。
『増えてない?』
『黒装備集合してるじゃん』
『何かの会議?』
「サン社員、もう少し近づける?」
「少しだけなら」
サン社員がゆっくりと近づいていくが、会話の内容までは聞き取れない。
「すみません。これ以上は」
「そうか」
画面の中で、黒装備の連中が何かを話し合っている。
しばらくすると、そのうちの一人が別の冒険者を連れてきた。
「……また誰か連れてきたな」
『黒装備が冒険者を集めてる?』
『昨日の新人の話と繋がったな』
「そう見える」
俺は少し考える。
始まりの町では、新しく来た冒険者にNPCを信用するなと伝える。
そして、リーン伯爵領へ行くよう勧める。
その先では、冒険者が集まる場所に黒装備の連中が集まっている。
「……やっぱり、偶然じゃないよな」
『何が?』
「……これ、全部繋がってるんじゃないか?」
『何か一つの目的があるってこと?』
「そう」
ただ、ここで一つ疑問が出てくる。
「でも、進化だけじゃ説明できないんだよな」
『なんで?』
「俺たちが侯爵から聞いた進化条件は、成長段階と推薦だろ?」
『そうだな』
『冒険者を集める必要ないな』
「そうなんだよ」
黒装備の連中が進化を目指している。
それ自体は間違いない。
でも、冒険者をリーン伯爵領へ誘導して、さらに集める理由までは説明できない。
「だったら……」
俺は画面を見る。
酒場の奥では、黒装備の連中と冒険者たちが集まっている。
「進化は、目的の一つにすぎないんじゃないか?」
『おお』
『もっと大きな目的がある?』
「そう考えた方が自然だと思う」
まだ確証はない。
黒装備の連中が何を企んでいるのかも分からない。
リーン伯爵がどこまで関わっているのかも分からない。
それでも、今までバラバラだった情報が、少しずつ繋がってきている。
「……これ、もしかして」
『お?』
「俺たちが調べてたのって、黒装備とリーン伯爵だけじゃないんじゃないか?」
『どういうこと?』
「黒装備が何かを企んでるんじゃなくて……」
俺はそこで言葉を止める。
まだ、答えには届いていない。
「この町と、リーン伯爵領で起きていること全部が、一つの何かに繋がってるんじゃないか?」
『一つのイベントとか?』
「……イベント」
その言葉が妙に引っかかった。
ゲームの中で起きている出来事。
町が解放される。
新しい冒険者がやってくる。
黒装備の連中が動き出す。
NPCとの関係が悪化する。
そして、別の領地へ冒険者が集まっていく。
「……もし、これが最初から用意された流れだったら」
俺は画面を見つめる。
そこには、今も冒険者たちが集まっていた。
「誰が、何のためにこんなことを仕組んだんだ?」
『またデカい謎が出てきたな』
『でも今までより核心に近そう』
「そうだな」
俺は苦笑する。
まだ答えは分からないが、今までとは何かが違う。
俺たちはずっと、目の前で起きている事件を一つずつ追いかけてきた。
もしかすると、追いかけるべきだったのは事件そのものじゃない。
その事件を繋げている何かだったのかもしれない。
「……一度、侯爵に全部話してみるか」
『侯爵に報告?』
「ああ」
黒装備の連中が何をしているのか。
リーン伯爵領で何が起きているのか。
そして、それらが一つの流れになっている可能性。
「ここまで分かったなら、一回まとめて報告した方がいい」
俺はそう言って、もう一度画面を見る。
酒場の奥では、黒装備の連中が何かを話し続けていた。
その内容は、まだ分からない。
けれど。
俺たちが追っていたものの正体が、少しずつ見え始めていた。




