第四十三話
翌日。
俺はいつものように、噴水広場にいた。
昨日のことを考えている。
黒装備の連中は、俺たちだけじゃなく、新しく来た冒険者にも『NPCを信用するな』と伝えていた。
だったら、その言葉を受け取った冒険者が、その後どうしているのか。
それを調べてみればいい。
問題は――。
「俺、動けないんだよな」
『今さら?』
『知ってた』
『石だからな』
「いや、そうなんだけどさ」
俺は噴水広場から動けない。
つまり、新しく来た冒険者を探しに行くこともできない。
「サン社員に頼むか」
『結局そこか』
「俺一人じゃ何もできないからな」
『それを堂々と言うなw』
「事実だし」
俺は改めて、昨日のことを考える。
もし、それが本当に自分たちだけのためではないのなら、実際にその言葉を受け取った冒険者が、その後どうしているのかを確かめればいい。
「……とは言ったものの、どうやって探すんだ?」
『そこからかよ』
『冒険者なんていっぱいいるだろ』
「いや、だからこそ分からないんだよ」
周辺を見渡すと、噴水広場を歩く冒険者や、武器屋へ向かう冒険者。
ギルドへ入っていく冒険者。
当然だが、俺には誰が新しく来た冒険者なのかなんて分からない。
「お待たせしました」
そのとき、サン社員がやってきた。
「昨日話していた新人の件ですね?」
「ああ。黒装備の連中に声をかけられた冒険者を探したい」
「なるほど」
サン社員は少し考える。
「それなら、最近ギルドで見かけるようになった人が何人かいますね」
「本当か?」
「はい。装備もまだ新しかったので、おそらく最近この町に来た人たちだと思います」
さすがサン社員。
こういうときの情報収集能力が妙に高い。
「その中に黒装備の連中から声をかけられた人がいるか、聞いてみましょう」
「頼む」
サン社員はそう言って、ギルドへ向かった。
そして、しばらくして。
「……この人ですね」
サン社員が一人の冒険者を噴水まで連れてきた。
まだ装備も新しく、見るからに冒険者になったばかりという感じだ。
「すみません。一緒に話を聞きたいので、彼の配信を開いてもらえますか?」
サン社員がそう頼むと、冒険者は少し戸惑いながら俺の配信を開いた。
「初めまして」
「どうも」
軽く挨拶を交わす。
「突然すみません。少し聞きたいことがあるのですが」
「何でしょう?」
「最近、黒い装備をした冒険者から話しかけられませんでしたか?」
「ああ、それならありましたよ」
あっさり答えた。
『おお』
『ビンゴじゃん』
『話早すぎる』
コメント欄が少し盛り上がる。
「何を言われたんだ?」
「大したことじゃないですよ」
新人は少し考えてから答えた。
「この町のNPCには、あまり近づかない方がいいとは言われました」
「やっぱり。他には何か言われなかったか?」
「あと、冒険者ならリーン伯爵領の方が活動しやすいとも……」
「!」
思わず意識がそちらへ向く。
『来たな』
『リーン伯爵領』
『やっぱり誘導してる?』
「リーン伯爵領へ行け、と言われたのか?」
「いえ、そこまで強くは言われてません」
「じゃあ、どういう言い方だった?」
「向こうの方が冒険者に優しいとか。稼ぎやすいとか。わざわざこの町で嫌われる必要はないんじゃないか、みたいな感じでしたね」
「なるほど……」
命令ではなく、ただ、選択肢を示している。
それも、始まりの町ではなく、リーン伯爵領へ向かうように。
「それで、あなたはどうするつもりなんですか?」
サン社員が尋ねる。
「実は、近いうちに移動しようかなと思ってます」
「リーン伯爵領へ?」
「はい」
黒装備の連中が始まりの町でNPCとの関係を悪化させて、冒険者にNPCを信用するなと教える。
そして、その冒険者にはリーン伯爵領の方がいいと伝える。
「……これ、誘導しているのは確かっぽいな」
『かなり繋がってきたな』
『黒装備→新人→リーン伯爵領』
『でもまだ目的が分からん』
「そうなんだよ」
そこが問題だった。
黒装備の連中が冒険者をリーン伯爵領へ誘導していることは、かなり確かになった。
だが、それだけでは、なぜそこまでする必要があるのかが分かっていない。
リーン伯爵は、このことを知っているのか。
黒装備の連中にとって、冒険者がリーン伯爵領へ集まることで何が起きるのか。
俺は考える。
今まで集めてきた情報を、一つずつ並べていく。
進化。
領主からのクエスト。
始まりの町でのNPCとの関係悪化。
他の冒険者への『NPCを信用するな』という言葉。
そして、リーン伯爵領への誘導。
「全部繋がってるようには見える」
けれど。
「肝心の真ん中が抜けてるんだよな」
『真ん中?』
「そう。黒装備の連中が何をしたいのか、その理由が分からない」
『いつもの謎』
『証拠は増えるのに答えは増えないよな』
「ほんとそれ」
思わず苦笑する。
ただ、一つだけ確かなことがある。
今まで俺たちは、黒装備の連中がNPCとの関係を悪化させているという事実だけを見ていた。
だが、それだけじゃない。
彼らは他の冒険者にも影響を与えている。
そして、その先にはリーン伯爵領がある。
「……だったら、次に調べるべき場所は決まったな」
『リーン伯爵領?』
「ああ」
俺はそう答える。
「黒装備の連中が、あそこで何をしているのか」
それを確かめれば。
今まで見えなかったものが、少しは見えてくるかもしれない。
「……調べてみるか」
俺はそう呟いた。




