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路傍の石  作者: マグガネ


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第四十二話

俺は昨日の出来事について、改めて考えていた。


黒装備の男が言っていた。


領主から受けられるクエストを進めるためには、領主の評価を上げる必要がある。


そして、そのために始まりの町でNPCとの関係を悪化させている。


一見すると、これで全部説明できたように思える。


「……やっぱり、おかしくないか?」


『何が?』


「昨日の話だよ」


領主の評価を上げるということと、住民との関係を悪化させること。


「普通に考えたら、逆じゃないか?」


『まあ、普通はそうだな』


『住民に嫌われまくって領主から評価されるって、意味わからんな』


『領主と住民の好感度が別なんじゃね?』


「それだ」


コメントを見て、俺は思わず呟いた。


「固有NPCの好感度は個別で、住民みたいな一般的なNPCは一括で管理されてるんじゃないか?」


『ゲームなら普通にありそう』


『町の住民好感度と領主好感度みたいな?』


『むしろ別じゃない方が不自然』


『そりゃ住民一人一人に好感度設定してたら管理が面倒だしな』


俺たちは「領主の評価」と「NPCとの関係」を同じものとして考えていた。


だが、黒装備の男は、そこを同じものだとは言っていない。


ただ、領主の評価を上げる必要があって、NPCとの関係を悪化させることがクエストの条件になっている。


そう言っただけだ。


「……別々の条件ってことか」


『それなら矛盾しないな』


『領主の評価を上げる条件と、住民との関係を悪くする条件が同時に存在してるってこと?』


「そう考えれば、今までの行動にも説明がつく」


黒装備の連中は、始まりの町で住民に嫌がらせをしていた。


新しく来た冒険者に、『NPCを信用するな』とも教えていた。


それを俺たちはずっと「NPCとの関係を悪化させるため」だと考えていた。


「じゃあ、もう一つ気になることがある」


『なに?』


「なんで、わざわざ他の冒険者にまで『NPCを信用するな』って言ってるんだ?」


『あー』


『確かに』


『自分たちだけ嫌われればいいなら、他の奴に言う必要ないな』


クエスト条件を満たすだけなら、他の冒険者にNPCを嫌わせる必要なんてない。


自分たちだけで嫌がらせを続ければいい。


それなのに、黒装備の連中は新しく来た冒険者にまで、「NPCを信用するな」と言っている。


「黒装備の連中は、自分たちだけじゃなくて、他の冒険者とNPCの関係まで悪くしようとしてるんじゃないか?」


『なんで?』


『そこまでする意味ある?』


『始まりの町の冒険者全体を敵対させたいとか?』


「敵対とはいかないまでも、距離を離したいとかなのかなぁ」


まだ推測の域を出ない。


「……場所によって、あいつらの行動が全然違うんだよな」


『始まりの町では住民と敵対』


『リーン伯爵領では住民と仲良し』


『やっぱり目的が違うんじゃね?』


「そうだな。もし、本当に住民そのものが嫌いなら、リーン伯爵領でも同じことをするはずだ」


けれど、実際は違う。


始まりの町でNPCに嫌がらせをしているのは、NPCが嫌いだからではない。


「……やっぱり、目的があるんだ」


『何の目的?』


「それは分からない」


『分からんのかい』


「いや、そこまでは分からないって」


コメントに突っ込まれる。


だが、俺の中では、少しずつ形が見えてきている気がする。


黒装備の連中は、進化を目指している。


そのために、領主から受けられるクエストを進めていて、そのクエストには複数の条件がある。


「……これ、もしかすると」


『お?』


「黒装備の連中がリーン伯爵領に行ってることと、始まりの町でNPCとの関係を悪化させてることって、別々の話じゃないのかもしれない」


『どういうこと?』


「まだ仮説だけど」


俺は一度、頭の中を整理する。


「始まりの町で冒険者とNPCの関係を悪くする。その結果、冒険者たちがこの町に居づらくなる」


『なるほど』


『リーン伯爵領に行く奴が増える?』


『でも、それが黒装備に何の得があるんだ?』


「伯爵関連の何かにつながるんだろうけど、そこまでは分からない」


証拠が足りない。


ただ、もし本当に黒装備の連中が冒険者を別の場所へ誘導しようとしているのだとしたら、今までの行動にも意味が出てくる。


NPCを信用するな。


NPCとの関係を悪化させる。


始まりの町で問題を起こす。


そして、リーン伯爵領では普通に過ごす。


「……もしかして、始まりの町から冒険者を追い出したいのか?」


『それなら全部つながる?』


『いや、まだリーン伯爵との関係が説明できなくね?』


「そうなんだよ」


コメントの指摘はもっともだった。


今の仮説には、まだ足りないものが多い。


なぜ黒装備の連中は、そこまでして冒険者とNPCの関係を悪化させようとしているのか。


リーン伯爵は、このことを知っているのか。


「……結局、まだ分からないことだらけだな」


『いつもの』


『謎が増える速度の方が解決する速度より速くない?』


「それな」


思わず苦笑する。


けれど、昨日までとは少し違う。


今までは、バラバラだった情報をただ集めていただけだった。


それらが、少しずつ一つの形になり始めている。


「……まずは、確かめてみるか」


『何を?』


「黒装備の連中に『NPCを信用するな』って言われた冒険者が、その後どうしているのか」


『そこ調べるのか』


『確かに一番検証しやすそう』


「もし、そいつらが始まりの町を離れてリーン伯爵領に向かっているなら……」


俺はそこで言葉を止めた。


まだ決めつけるには早い。


「その時に、もう一度考えればいい」


そう言って、俺は町を見渡した。


そこには、何も変わらない風景がある。


黒装備の連中が何を目的に動いているのか。


その答えは、まだ分からない。


けれど、今まで見えていなかったものが、少しずつ見え始めている。


それなら、次は確かめるだけだ。

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