第四十一話
侯爵の話を聞き終え、俺は一度頭の中を整理する。
進化には二つの条件がある。
一つは、一定以上の成長段階に到達すること。
そしてもう一つが、身分の高い人物から推薦を受けること。
これなら、今までの疑問にも説明がつく。
『俺達みたいなやつ専用なんでしょ?』
『進化の条件、もう結構満たしてきたんじゃないっすか?』
あの会話から考えても、進化を目的として動いていたことは間違いない。
そして、奴らは始まりの町とは違い、リーン伯爵領では住民から歓迎されていた。
武器屋では、町が解放される二週間も前から奴らの武器が注文されていた。
そして、注文書を持ってきた人物は、リーン伯爵家の関係者だった可能性が高い。
さらに、リーン伯爵家は昔から冒険者を積極的に受け入れている。
こうして並べてみると、偶然にしては出来すぎている。
「では、リーン伯爵が推薦したか、知る方法はないのでしょうか?」
サン社員が尋ねる。
「ない。王家であればもしかしたら見れるのかもしれないが、我ら貴族は承認された通知を受け取って知るのが常である」
「そうですか……」
日出夫は何か知らないだろうか。
「日出夫、王族について何か知ってるか?」
『う~ん(´・ω・`) ちょっとわからないかな(´・ω・`) 現状では接触することは出来ないんじゃないかな(´・ω・`)』
「そうか、ありがとう日出夫」
貴族にも詳しい日出夫が言うのなら、今の俺たちでは王族に確認することも難しそうだ。
侯爵は腕を組んで続ける。
「ただ、リーン伯爵が冒険者を重用していることは事実だ」
「それは、悪いことなんですか?」
炎児が尋ねる。
「いや」
侯爵は即答した。
「リーン伯爵領では、魔物による被害が多かった。冒険者を受け入れ、魔物を討伐させることで領民の安全を確保した。その結果として商業も発展した。冒険者を受け入れること自体は、何もおかしなことではない」
確かにそうだ。
リーン伯爵領で聞いた話を思い出すと、冒険者が魔物を倒して町が安全になる。
そこで稼いだ冒険者が武器や食料を買うことで店が儲かる。
それなら、冒険者を歓迎する理由として十分だ。
「それでは、何が問題なんですか?」
サン社員が尋ねる。
侯爵は少しだけ沈黙した。
「問題は、誰を受け入れているかだ」
「……黒装備の連中」
「そうだ」
侯爵がこちらを見る。
「奴らが私の推測通り、進化を目的として動いているのであれば、リーン伯爵が奴らをどのように扱っているのか。それを確かめる必要がある」
「でも、リーン伯爵が奴らを支援している証拠はまだないですよね?」
「その通りだ」
侯爵は頷いた。
「武器を事前に用意していたことも、冒険者を歓迎していることも、それだけなら証拠にはならん」
「……じゃあ、俺たちはまだ何も分かっていない?」
「いや」
侯爵は首を横に振った。
「少なくとも一つ、分かったことがある」
「何ですか?」
「奴らが進化を目的として動いているということだ」
俺は黙って考える。
今まで、俺たちは黒装備の連中が何を目的に動いているのか分からなかった。
NPCを嫌っているのか、冒険者を嫌っているのか。
リーン伯爵と何か企んでいるのか。
そもそも、何のためにあんなことをしているのか。
だが、進化という目的が分かったことで、少しだけ見え方が変わった。
奴らにとって、リーン伯爵との関係は目的ではなく、進化するための手段なのかもしれない。
「なら、今までの行動も全部、進化のためだったってことですか?」
サン社員が呟く。
俺は少し考える。
「それは……まだ分からない」
始まりの町で数々の嫌がらせをしていたこと。
NPCを信用するなと言っていたこと。
黒装備の連中が集団で行動していたことや、リーン伯爵領での態度もそうだ。
確かに、全部が進化に繋がっているようにも見える。
でも、奴らの目的が進化だとしても、分からないことがある。
「どうして、あいつらは始まりの町であんなことをしているんだ?」
リーン伯爵領ではNPCと普通に接しているし、店員とも仲が良く、武器まで用意してもらっていた。
それなのに、始まりの町ではNPCを怒らせ、冒険者と住民の関係まで悪化させている。
同じ連中とは思えない。
「場所によって、目的が違うのか……?」
俺はそう呟いた。
「話は以上だ。また、いつでも来るがよい。お前たちであればいつでも門は開く」
そう言ってサン社員と炎児の二人は部屋から退出した。
俺は二人に話しかける。
「あとは奴らが何を目的として始まりの町を利用しているのか。それを調べることで何か分かりそうだな」
「そうですね」
進化にリーン伯爵と黒装備の冒険者。
そして、始まりの町。
点だった情報が、少しずつ繋がって線になってきている。
ただ、その線がどこに向かっているのか。
それだけは、まだ分からなかった。




