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路傍の石  作者: マグガネ


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第三十八話

ここ数日、黒装備の連中を調べているが、何も進展がない。


けれど、観察していて分かったこともある。


あいつらの態度が、最近、軟化しているような気がする。


初めの頃はピリピリとした雰囲気だったが、冒険者同士で談笑している光景をよく目にするようになってきた。


ここまで色々と調べてきたが、まだ行っていない一番手っ取り早い方法が残っている。


本人たちに聞けばいい。


「……もう、直接聞けばよくないか?」


「直接、ですか?」


「そう。あいつらが何を考えてるのか、本人たちに聞いてみよう」


『今さらすぎる』


『それ最初にやれよ』


『確かに』


「いや、最初は警戒されてたんだから仕方ないだろ」


『でも今ならいけそうじゃね?』


「まあ、それもそうだな」


俺たちは、以前見つけた黒装備の連中が集まっていた場所へ向かった。


しばらく探していると、見覚えのある黒い装備を身につけた冒険者を見つける。


サン社員が声をかける。


「すみません。少し聞きたいことがあるのですが」


「ん?」


黒装備の男がこちらを見る。


以前なら警戒していたかもしれないが、今回は意外にも普通の反応だった。


「なんだ?」


「少しお話を伺いたいのですが」


「別にいいぞ」


「……え?」


思わず声が出る。


「いいんですか?」


「そんなに驚くことか?」


「いや……」


サン社員は言葉に詰まっている。


以前は、あれだけ警戒していたのに、妙にあっさりしている。


「それもそうか。けどな、最近は、もういいんじゃないかと思ってな」


「何がです?」


「情報を隠すことだよ」


男は周囲を見回してから、少しだけ声を落とした。


「最近、俺たち以外にもあのクエストをやってる奴が増えてきただろ?」


「あのクエスト……」


俺たちが思い浮かべるのは、あのクエストだ。


【クエスト:陰謀を暴け】


始まりの町で、冒険者と住民の間に生じた不和を調査するクエスト。


「そういや、最近クエストを受けてる冒険者が増えてるな」


「ああ。だから、もう俺たちだけが知ってる情報ってわけでもない」


「それはどういう意味ですか?」


サン社員が質問をする。


「最近は、クエストを進めてる奴も増えたし、あっちでいい待遇を受けられる奴も増えてるんだよ」


「あっちって言うのは?」


「ん? リーン伯爵領に決まってるだろ」


「なるほど……。それで情報を隠す必要がなくなったのですか?」


『じゃあ黒装備だけの特権じゃなくなったってこと?』


『なるほど、全部理解した』


「そういうことだ」


男はあっさり答える。


「でも、それなら一つ気になることがあるのですが……」


サン社員は続けて質問をする。


「なんで、まだ始まりの町でNPCに嫌がらせをしてるんですか?」


男の表情が少し変わった。


「……それは」


「リーン伯爵領ではNPCと普通に接していますよね?」


「まあな」


「ここでも普通に接すればよろしいのでは?」


しばらく沈黙し、やがて男が口を開いた。


「簡単な話だ。俺たちは必要だからやってるんだよ」


「必要ですか?」


「ああ」


男は始まりの町を見回す。


何か見つかったらまずいのだろうか。


「その感じから行くと、まだそこまで行ってないのか。領主から受けられるクエストがあるだろ?」


「はい」


「それを最後まで進めるには、領主の評価を上げないといけない」


「領主の評価?」


『侯爵の好感度ってこと?』


『ゲームらしくなってきたな』


『NPCとの関係が数値化されてるのか?』


俺は少し考える。


「じゃあ、NPCとの関係を悪くしてるのは……」


「クエストの条件だ」


男は、何でもないことのように答える。


「この町で俺たちがやってることも、全部そのためだ」


「……」


頭の中で、これまでの情報が繋がっていく。


NPCへの嫌がらせ。


新しく来た冒険者への「NPCを信用するな」という言葉。


黒装備の連中が同じ目的で動いていたこと。


そして、以前聞いた言葉。


――条件のためだったんすけど。


――NPCと仲良くしてたら俺たちの邪魔になる。


「じゃあ、あいつらが言っていた『進化の条件』っていうのは……」


「それは――」


男が口を開いた、その瞬間だった。


「……え?」


目の前にいた男の姿が、突然消えた。


「……は?」


本当に、一瞬だった。


そこに立っていたはずの男が、跡形もなく消えている。


「え?」


サン社員も固まっている。


『え?』


『今、消えた?』


『ログアウト?』


『いや、今の何?』


『死んだ?』


「いや……」


男が立っていた場所には何もない。


死体もないし、エフェクトもない。


ただ、そこにいたはずの男だけが消えている。


「サン社員」


「はい」


「今の、見たよな?」


「……見ました」


俺は配信画面を確認する。


映像にも、確かに残っている。


男が話している。


そして――


そこで消えていた。


「なんだよ……これ」


『バグ?』


『強制ログアウトじゃない?』


『でもログアウトなら普通に消えるだけだろ』


『今の消え方おかしくね?』


『まさか運営に消された?』


「……」


俺は何も答えられなかった。


しばらくして、サン社員が口を開く。


「ソラさん」


「なんだ?」


「もしかすると……」


「うん」


「今、あの人は『進化の条件』について話そうとしましたよね?」


「……そうだな」


それ以外に、思い当たることはない。


偶然なのか。


それとも――。


「進化の条件について話すこと自体が、何かの制限に引っかかってる?」


『それなら前の奴も……』


『「何口に出してんだよ」って言ってたやつ?』


『あれも知ってたってこと?』


「……」


あの言葉。


――てめぇ、何口に出してんだよ。


あの時、俺は単純に重要な情報を漏らすなという意味だと思っていた。


でも、もし違うのだとしたら。


「……分からないな」


今のところ、答えは出ない。


ただ、一つだけ気になることがある。


俺たちは今まで、黒装備の連中が進化条件を知っていて、独占していると思っていた。


「もしかして、あいつらは知ってるんじゃなくて……」


『?』


「知っていても、それを誰かに伝えることができないのかもしれない」


『それめちゃくちゃ怪しいな』


『ゲーム側の制限?』


『じゃあ誰がそんな制限を?』


「それは……」


ゲームの仕様なのか。


クエストの制限なのか。


それとも、もっと別の何かなのか。


今の俺には、判断する材料がないから何とも言えない。


「とりあえず、今日分かったことを整理しよう」


サン社員が頷く。


「はい」


「黒装備の連中は、クエストを進めることでリーン伯爵領で何らかの恩恵を受けている」


「はい」


「そして、領主の評価を上げる必要がある」


「そのために、NPCとの関係を……」


「悪化させている」


『でも、それだと好感度上がらなくね?』


『むしろ下がりそう』


「そこが問題なんだよな」


俺は考え込む。


領主の評価を上げるために、NPCとの関係を悪化させる。


一見すると矛盾している。


だが、黒装備の連中は、それを必要なことだと言っていた。


そして、その理由を聞こうとした瞬間に――。


「……やっぱり、まだ何か隠されてるな」


『そりゃそうだろ』


『むしろ今までより気になる』


「まあ、今日はここまでにしよう」


そう言ってから、配信を閉じた。


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