第三十六話
図書館に戻ると、先ほどの司書がまだカウンターに座っている。
こちらに気づいたのか、少し驚いたような顔をしている。
「おかえりなさい。二度目の来館ですね。どのような本をお探しでしょうか?」
「もう少し調べたいことがありまして、リーン伯爵家と冒険者の関係について調べたいんですが、何か資料はありますか?」
「領主様と冒険者の関係ですか?」
司書は目を閉じて少し考えている。そして、目を開くと口を開いた。
「それでしたら、貴族史よりも領地の記録を調べた方がいいかもしれませんね」
「領地の記録? それはどういったものなのでしょうか?」
「魔物の被害や、討伐依頼などについて記録されているものです。ご案内しましょうか?」
「はい、よろしくお願いします」
司書に案内され、図書館の奥へ進んでいく。案内がなければ、こんな奥まで見ていなかっただろう。
そこには、先ほど見たような綺麗な本ではなく、少し古びた本が大量に並んでいる。
案内を終えた司書は軽く頭を下げ、カウンターに戻っていった。
「圧巻ですね……」
『これ全部調べるの?』
『無理ゲー』
『サン社員ファイト』
「現実の図書館と違って、検索システムなんてないよな」
『それゲームとしてどうなんだ』
「俺に言うな」
サン社員が苦笑するが、本棚に向き直ると顔を引き締める。
「では、年代を絞ってみましょう。先ほどの本では、二代前の当主の時代から冒険者を積極的に受け入れたと書いてありました」
「ああ」
「なら、その時代の記録から調べればいいのでは?」
「そうだな」
サン社員は棚から何冊か本を取り出し、机の上に並べていく。
俺はその様子を配信画面越しに眺める。
しばらくして、サン社員が一冊の本を開いた。
「ありました」
「何が書いてある?」
「魔物の大量発生についてですね」
サン社員はページを読み進める。
「当時、この地域では魔物の数が急激に増えていたみたいです。町の兵士だけでは対応しきれなくなったため、冒険者を受け入れた、とあります」
「やっぱり、それがきっかけか」
「はい」
さらにページをめくる。
「冒険者に討伐を依頼するだけではなく、町の施設を利用できるようにしたり、武器屋や宿屋などに冒険者向けの商品を用意させたりもしたようです」
「なるほどな」
『冒険者を呼び込むための町づくりってことか』
『そりゃ冒険者歓迎にもなるわな』
「そういうことだろうな」
ここまで聞く限り、リーン伯爵家が冒険者を歓迎している理由は納得できる。
魔物を倒してくれて、金も落としてくれる。
そして、そのために必要な環境まで整えてきた。
始まりの町の領主とは、考え方が違う。
「じゃあ、黒装備の連中がこの町で歓迎されているのも、その延長なんでしょうか?」
サン社員が尋ねる。
「……それだけなら、そうかもしれない」
俺は少し考える。
確かに、リーン伯爵が冒険者を歓迎しているなら、黒装備の連中が店で優遇されていても不思議ではない。
武器屋で注文した武器を用意してもらっていたことだって、冒険者支援の一環と考えられる。
『じゃあ、リーン伯爵は関係ないのか?』
『普通に冒険者を支援してるだけじゃね?』
『最初からそういう領主だったってことか』
「……でも」
俺は、そこで言葉を止める。
「何か気になることがありますか?」
「二週間前の注文だ」
「注文ですか?」
「ああ」
黒装備の連中がこの町に来たのは、町が解放された直後。
そして、その連中が受け取った弓は二週間前に注文されていた。
しかも、その注文書を持ってきたのは、リーン伯爵家の人間らしい。
冒険者を支援するために武器を用意していた。
そう考えれば、確かに説明はつく。
「どうして、あの連中のために武器を用意したんだ?」
「そうですね。優遇というには、少し行き過ぎている気がしますね」
サン社員が黙り込む。
『たしかに』
『普通なら町が解放されてから注文すればいいよな』
『でも、前から注文する必要があるほど欲しい武器だったとか?』
「それもあるかもしれない」
今まで集めた情報を並べてみる。
黒装備の連中。
進化の条件。
NPCとの関係を悪化させる行動。
そして、解放直後に現れた新しい町。
その町では、黒装備の連中はNPCと良好な関係を築いている。
さらに、その連中の武器は町が解放される前から準備されていた。
「……やっぱり、偶然とは思えないな」
『何か裏で情報を持ってた?』
『リーン伯爵家から情報をもらってたとか?』
「それはまだ分からない」
俺はそう答える。
リーン伯爵が黒装備の連中に情報を流した。
そう考えることはできる。
でも、それなら一つ気になる。
「だったら、どうして始まりの町ではあんなことをしてるんだ?」
『あー』
『確かに』
『リーン伯爵が支援してるなら、NPCと仲良くさせた方がよくない?』
「そうなんだよ」
リーン伯爵は冒険者を歓迎している。
黒装備の連中も、この町ではNPCと仲良くしている。
なのに、始まりの町ではNPCとの関係を悪化させようとしている。
「場所によって、目的が違うみたいだな」
「目的が違う?」
「ああ」
俺は少し考える。
「この町では、あいつらは冒険者として普通に活動している。でも、始まりの町では、わざとNPCと冒険者の関係を悪くしている」
『進化条件のためじゃない?』
『でも、それならなんでこの町では普通なんだ?』
「そこなんだよ」
黒装備の連中は、何かの条件を満たそうとしている。
その条件には、NPCとの関係が関係している可能性が高い。
でも、その条件を満たすために、なぜ町によって行動を変える必要がある?
「……もしかすると」
俺は一つの可能性を思いつく。
「進化の条件は、一つじゃないのかもしれない」
『え?』
『どういうこと?』
「いや、まだ推測だ」
自分でも確信はない。
でも、もし進化に複数の条件があるのなら。
あいつらが町によって違う行動を取っている理由も説明できるかもしれない。
「もっと調べる必要があるな」
「何を調べますか?」
「まずは、リーン伯爵家が冒険者に対して、どこまで支援していたのか」
俺は先ほど見つけた本を思い出す。
「特定の冒険者だけを支援していた記録がないか調べよう」
サン社員は頷いた。
「分かりました」
俺たちは、再び古い記録を読み始めた。




