第三十五話
「でも、調べるにしても最近のことですよね。図書館にそういう記録もあるんでしょうか?」
「どうだろうな。少なくとも、リーン伯爵家の歴史だけじゃ分からないことだと思う」
俺は少し考える。
黒装備の連中が、この町が今の最前線だから解放された直後にやって来ただけ、という可能性もある。
でも、武器屋で聞いた言葉が引っかかっている。
『この前頼んでた弓ができた』
あの発言は、以前からこの町の武器屋に注文していたということだ。
この町は最近解放されたばかりのはずだが、いつ注文したんだ?
「……サン社員」
「はい」
「一度、武器屋に戻ってくれないか?」
「武器屋ですか?」
「ああ。店員に少し聞いてほしいことがあるんだ」
サン社員は本を閉じ、カウンターに一礼して図書館を出ていく。
『図書館の調査はいったん終わりか?』
『最近のことなら住人に聞いた方が早いよな』
「……まぁ、そういうことだ」
サン社員は先ほど訪れた武器屋へ歩いていく。その途中で、聞いてほしいこともサン社員に伝えておく。
伝え終わった後、周囲を見ると、この町には黒装備の連中が多いように感じる。
店に到着し、中に入ると、先ほどと同じ店主がカウンターに立っていた。
「いらっしゃい。……あれ? 先ほどもいらっしゃいましたよね?」
どうやら店主は、サン社員のことを覚えていたようだ。
……それもそうか。彼の装備は、どこにいても分かりやすいからな。
「すみません。少し聞きたいことがありまして」
「何だい?」
「先ほど、黒い装備をした冒険者が弓を受け取っていましたよね?」
「そうですね。注文した品を取りに来られましたね」
「その弓って、いつ頃から注文されていたんですか?」
「いつ頃って……」
店主は少し考える。
「確か、店に注文書を持ってきたのは、何週間か前だったな」
「……何週間か前?」
思わず声が出た。
「ええ。正確には、二週間ほど前だったと思います」
『え?』
『それはおかしくない?』
『まだプレイヤーはこの町に入れなかったよな?』
「その注文書って、先ほどの冒険者本人からだったのでしょうか?」
「いや、違うよ」
「え?」
「注文書を持ってきたのは別の人だ」
別の人?
それじゃあ、この町が解放される前、本人ではない誰かが注文していたってことか。
じゃあ、誰が注文した?
そして、なぜその人物は、その冒険者がこの町に来ることを知っていた?
「……その注文を持ってきた人について、何か覚えていらっしゃいますか?」
サン社員も同じ疑問を持ったのか、質問してくれた。
「そうだなぁ……」
店主は腕を組み、記憶を探る。
「顔までは覚えてないが、誰だったかは分かるな」
「それはなぜ?」
「何か買ってくれれば、口が軽くなって話せそうなんだがなぁ」
その言葉を聞いて、サン社員はカウンターの横にある砥石を店主の前に出す。
店主は、どこか不満そうに眉にしわを寄せている。
どうやら砥石程度では、口を軽くするには足りなかったらしい。
サン社員もそれを感じ取ったのか、もう一つ手に取り、店主の前に出す。
店主はじっとサン社員を見たあと、一息吐く。
「毎度あり」
「それで、その人物とは?」
「リーン伯爵家の人間だろうな。どの程度の地位にいるかは、分からんが」
「それはどうして?」
「注文書を懐から出すときに、ちらっと伯爵家の紋章の入った短剣が見えたんだよ」
『え?』
『それってつまり……』
俺は何も言わなかった。
まだ、リーン伯爵が黒装備の連中と繋がっていると決まったわけじゃない。
単に、冒険者支援の一環で注文をしたのかもしれない。
でも、これは偶然にしては、少し出来すぎている。
黒装備の連中が、この町に来たのは解放直後。
その連中の武器は、二週間前に注文されていた。
そして、その注文を持ってきたのは、リーン伯爵家の使い。
「……サン社員」
「はい」
「もう一度、図書館に戻ろう」
「何か調べるんですか?」
「ああ」
俺は、さっきまで読んでいた本のことを思い出す。
リーン伯爵家が冒険者を歓迎するようになった理由。
それだけじゃない。
「リーン伯爵家が、冒険者とどう関わってきたのかを調べる」
俺たちは再び、図書館へと向かった。




