第三十二話
コメント欄が一気に流れ始める。
『でも、どういう関係なんだ?』
『伯爵が黒装備の支援をしてるのか?』
『じゃあ、始まりの町でやってることは何?』
『始まりの町とこの町で対応が違う理由が、ちょっと見えてきそう』
「そうなんだよなぁ」
そうつぶやいて、考え始める。正直、まだ分からないことが多すぎる。
黒い装備の冒険者たちは、始まりの町では住民との関係を悪化させるような行動を繰り返していた。
店の商品を壊したり、住民を脅したり、他の冒険者に「NPCを信用するな」と吹き込んだりと、嫌がらせと言えるような行為だ。
なのに、この町では別人のように振る舞っている。
店では普通に買い物をして、店員からも歓迎されていた。
「これってさ……」
俺は、今日これまでに集めた情報を整理していく。
「黒装備の連中は、別にNPCを嫌ってるってわけじゃないんじゃないか?」
『え?』
『どういうこと?』
『始まりの町でめちゃくちゃやってたじゃん』
「確かに、最初はあいつらがNPCを嫌いで、そういった行為を楽しんでるんだと思ってた」
『でも、楽しんでやってる奴いたよな』
コメントで指摘が飛んでくる。
思い返せば、サン社員の偵察のときに、そう言っていたやつがいたな。
「ん? ああ、サン社員の偵察のときに話してたやつのことだよな? 確かに、そいつは住民への嫌がらせをして楽しんでいたけど、嫌ってるかは別の話だと思う」
この町では、黒い装備の冒険者たちは普通に住民と会話している。
しかも、武器屋の店員は「あんたのところにはいつも世話になってる」とまで言っていた。
「本当にNPCが嫌いなら、この町でも始まりの町と同じような行動をするんじゃないか?」
『そうするのが自然だね』
『じゃあ始まりの町だけ狙ってる?』
「そこなんだよな」
俺は腕を組む。
石だから実際には腕なんてないけど。
始まりの町とこの町で、街の機能としてはほとんど同じだ。
どちらも冒険者が活動している町なのに、黒い装備の連中に対する住民の態度はまるで違う。
そして、その違いを生み出していると思われるのは――。
「やっぱり、リーン伯爵かな?」
俺は小さく呟いた。
この町には、いたるところにリーン伯爵の紋章がある。
そして黒装備の冒険者たちは、その紋章がある店を優先して利用しているようだった。
「もしかすると、リーン伯爵は冒険者を優遇しているのかもしれない」
『でも、それって当たり前じゃない?』
『冒険者って金持ってるだろうし』
『強いしな』
「そうなんだよな。そこだけなら、別におかしくない」
実際、冒険者は魔物を倒して金を稼ぎ、町に金を落とす存在だ。
強い冒険者なら、魔物から町を守ることだってできる。
「でも、始まりの町の領主は逆だった」
以前、領主から聞いた話を思い出す。
冒険者は強すぎる。
死んでも蘇る。
過去には町や住民に被害を与えた者もいた。
だからこそ、始まりの町では進化に関する情報を制限しているのだと。
そこで、一つの考えに行きつく。
「もし、リーン伯爵が冒険者を積極的に受け入れているとしたら……」
『黒装備の連中に進化の情報を教えた?』
「それも考えられる」
『じゃあ、あいつらの言ってた「条件」って?』
「そこなんだよな」
黒装備の連中が言っていたことを思い出す。
進化の条件。
そして、「俺達みたいなやつ専用」。
さらに、NPCとの関係を悪化させることが、自分たちの邪魔になるとも言っていた。
「もし、NPCとの関係が進化の条件になっているなら……」
始まりの町で黒装備の連中がやっていたことにも、別の意味が見えてくる。
ただの嫌がらせじゃない。
何かの条件を満たすために、意図的にやっていた可能性がある。
「でも、それなら……」
俺はそこで言葉を止める。
「リーン伯爵が、黒装備の連中に何をさせているのかが分からない」
『黒装備が勝手にやってる可能性は?』
『リーン伯爵とは無関係で、単に利用できる店を使ってるだけとか』
『そもそも共存共栄って何のことなんだ?』
「うん。まだその可能性も捨てられない」
今のところ、俺たちが持っているのは状況証拠だけだ。
黒装備の冒険者が、この町では優遇されているということ。
リーン伯爵の紋章がある店を利用しているということ。
そして、黒装備の冒険者自身が「共存共栄」と口にしたこと。
「これだけじゃ、リーン伯爵と黒装備の連中が仲間だとは言いきれないよなぁ」
『じゃあどうする?』
「決まってる」
俺はサン社員の配信画面を見る。
「もっと調べる」
まだ、この町には聞いていないことがいくらでもある。




