第三十一話
聞き込みをしている最中、少し気になったことがあった。
「サン社員。この後、時間って大丈夫か? もし大丈夫そうなら一時間。いや、三十分でいいから、そこで町中を見ててくれないか?」
俺はサン社員の配信画面を眺めながら提案する。
始まりの町と、この町の造りはよく似ている。
噴水があり、ギルドがあり、商店が並んでいる。
けれど、違う部分がどうにも気になる。
特に、黒い装備を身につけた冒険者たちのことだ。
始まりの町では、店の商品を壊したり、住民を脅したり、他の冒険者を追い出したりと、彼らは住民に迷惑をかけていた。
それなのに、見た限りでは、この町ではそんなことをしていない。
むしろ、聞き込んだ住民の様子から考えると、上客として扱われている節もある。
そして三十分ほど観察してもらった後、サン社員にまた提案する。
「サン社員、ちょっとあの人を追ってみてくれない?」
「黒い装備の冒険者ですか?」
「うん。今、雑貨屋から出てきた人」
サン社員の視線の先には、一人の黒い装備の冒険者がいた。
弓を背負い、胸元には見覚えのある烏の紋章がある。
以前、始まりの町で見た連中と同じだ。
「少し距離を取って追いかけます」
サン社員が歩き出す。
その冒険者は何軒かの店を通り過ぎた後、一軒の武器屋へ入っていく。
「ここで買い物か」
『仲間がいるっぽいな』
『ここの装備って結構値段したよな』
『店員は普通に接客してるな』
サン社員がその店に入り、武器を選んだふりをしてくれる。
彼らの声が聞こえる距離まで近づいてくれたようだ。
「おう、兄ちゃん。今日は何を探してる?」
数人いるうちの一人の店員が、黒い装備の冒険者に声をかける。
「この前頼んでた弓ができたって聞いたんだが」
「おう、できてるぞ。ちょっと待ってな」
店員はそう言うと、奥へと消えていく。
しばらくして、一本の弓を持って戻ってきた。
「ほらよ。注文通りだ」
「助かる」
冒険者は弓を受け取る。
「それと、これも頼めるか?」
そう言って、別の武器を指差した。
「もちろんだ。あんたのところにはいつも世話になってるからな」
「ありがとよ」
「……?」
俺は思わず画面を凝視した。
今の言葉。
始まりの町では、一度も聞いたことがない。
その後も会話を続けている。
隣の仲間がそいつに話しかける。
「おい、いいのか? 他の店見なくて」
「いいの、いいの。表のあれ見ただろ? 共存共栄よ。共存共栄」
そして、新しい武器も購入して、黒い装備のやつらは店から出て行った。
サン社員はその少し後に店を出て、噴水のところまで戻ってきた。
「サン社員」
「はい」
「この町って……黒い装備の冒険者に、かなり親切じゃない?」
『俺もそう思う』
『明らかに扱い違うよな』
『単純に金を落としてくれるからじゃない?』
『冒険者みんなにそうなんだろ?』
「今、あの店員、自分から聞きに行ったよな。でも、普通の冒険者のサン社員には近寄ってこない。明らかに対応が違いそう」
でも、それだけなのだろうか。
俺は少し考える。
始まりの町でも、冒険者は店で買い物をしている。
それなのに、あの黒装備の連中は住民との関係を悪化させるような行動を繰り返していた。
一方、この町では黒装備の冒険者が普通に買い物をして、店主からも歓迎されている。
そして、町の至るところにはリーン伯爵の紋章がある。
「……もしかして」
俺の中で、一つの仮説が浮かび上がった。
「さっき、サン社員に町の様子を見てもらったと思うけど」
『あったな』
『あの雑談タイムな』
『ただの休憩時間じゃないの?』
「三十分見た限りでは、黒い装備のやつらは全員、あの槍の紋章が飾られている建物に入っていった」
『偶然とかでは?』
「いや、三十分見た限りでは、あの紋章が飾られている店以外に入る黒装備のやつはいなかった。それに尾行したときも、他に武器屋があるのに、その店を選んで入った」
『単に注文した物を取りに行ったからじゃない?』
「その可能性もある。けど、あいつ、新しい武器も買ってたよな? 新しいものを買うのに、他の店と比較したりしないか?」
『人それぞれじゃない?』
『金周りはよさそうだったから気にしてないんじゃない?』
「その可能性もある。でも、その後の仲間との話で『表のあれ見ただろ? 共存共栄』って言ってた。あれが決め手になった」
『もしかして、黒装備の連中はリーン伯爵と何らかの関係がある?』
「その可能性が高い」
俺はそのコメントに答えた。




