第三十話
門で手続きをして、町の中に入る。
俺はこの町を見るのは初めてだった。
そこには、中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。
赤茶色をしたレンガ造りの建物が並び、正面には噴水がある。水が勢いよく吹き上がっていた。
「……あれ?」
何やら既視感がある。
『そういう反応になるよな』
『俺もそうだったわ』
「そうですね。私も初めてこの町に来た時、おそらく皆さんと同じ感想を抱きましたね」
思っていることを声に出す。
「この町、始まりの町と似てない?」
『だよねー』
『配置もかなり似てるんだよな』
『工数の削減のためじゃないかなって思ってる』
様々なコメントが流れていく。
工数に関しては、少し納得してしまうところがあった。
これほどのクオリティのゲームなのだ。
町の造りなど、一つ一つにこだわっていれば、時間がいくらあっても足りなくなるのは目に見えている。
そういった考えから、似せているというのはある程度筋が通っているように思える。
でも一方で、こんな分かりやすい部分まで流用しているというのは、少し疑問が残るところだった。
「それでは、調査と行きましょうか」
サン社員が町を歩き始める。
「それでは最初は住民の方への聞き込みがいいですかね?」
『よろしく頼む』
『いいね』
すると、近くにあった雑貨屋に入っていく。
「こんにちは」
「あぁ、いらっしゃい」
始まりの町とは違って、こちらの町では男性が店主のようだ。
「少しお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「聞きたいこと?」
店主は、きょとんとした顔でサン社員を見ている。
「今しがたこの町に着いたばかりで、このあたりの情報が欲しいのです」
そう聞いた瞬間、店主は笑顔に戻る。
「なんだ、そんなことか。いいよ、いいよ。なんでも聞いてくれ。でも……」
そう言うと、店主は周りを見始める。
「もちろん。買い物もさせていただきます」
「そりゃよかった」
店主は笑顔がひときわ明るくなった。
「それで何が聞きたいので?」
「この町、黒い装備の方が多いのですが、どういった方か分かりますか?」
「いいや。ここには長いこと住んでるが、見かけるようになったのは最近だな。特に何か知ってるって訳ではないなぁ。よく買い物してくれるから、割り引いたりしてるけど」
「そうですか……。それでは、進化という言葉について何か知っていますか?」
「あの冒険者がするってやつか? 俺達にゃわからんね。でも、領主様なら何か知ってるんじゃねえかな」
「そうですか、ありがとうございます」
そして、サン社員はポーションをいくつか手に取り、購入する。
「毎度。こんな情報でよければ、また来てくれ。商品を買ってくれるなら、多少は口が軽くなる」
「はい、機会があればよろしくお願いします」
そして雑貨屋を後にした。
その後もいくつかの住民に話を聞いたが、どれも同じような回答だった。
ひとまず、噴水の近くのベンチで話し合う。
「そういえば、サン社員。気づいてる?」
「何にでしょうか?」
「ここの住人。サン社員が声をかけても、表情が変わらないんだよ」
「言われてみれば、そうですね。始まりの町では見せていたような表情がないですね」
「うん、そうなんだよ。それと、進化についても言葉を濁さず答えてる」
「リーン伯爵は、その辺の情報の扱いが違うのですかね」
「そう考えるのが自然だと思う。でも、あんまり収穫はないね。もう少し踏み込まないとダメかな?」
そう言って、サン社員の配信画面を眺める。見れば見るほど、始まりの町に似ている気がする。
その時、一つの絵を見つける。
「サン社員。あの店の軒先にある絵って、何に見える?」
「どれでしょうか……。あぁ、あの絵ですね。何でしょう? 槍を持った人ですかね?」
よく見ると、同じような絵が他の店にも飾ってある。
「あっ、すみません。少しお時間いいですか?」
サン社員が、そのあたりにいた住人に声をかける。
「はい。大丈夫ですよ」
「すみません。あの、いたるところに槍を持った人が描かれている絵があると思うのですが、あれは何でしょうか?」
「あれはですね、領主のリーン伯爵の紋章ですよ」
「なぜ、あのような紋章に?」
「リーン伯爵の一族は槍の名手として知られておりまして、初代様は戦の中で、槍一本で大将に打ち勝って貴族になったという逸話があり、あのような紋章をしているのですよ」
「そうなのですか。答えていただき、ありがとうございます」
「いえ、お役に立てたならうれしいです」
そう言って、彼は歩いて行った。
こうして町を見てみると、ギルドや商店など、重要な店にはこの紋章の入った絵が飾られていた。




