第二十九話
サン社員の配信が始まった。
画面には、サン社員と俺の姿が映っている。
「それでは行ってきますね」
「はい。行ってらっしゃい。この町から応援しています」
「俺も配信で見てるから、そんなに気負わずに行ってきてくれ」
俺たちの言葉を聞くと、サン社員は歩いて行った。
そして数分もすると、町の外に出る門までたどり着いていた。
そこで門番と二言、三言話すと、通してくれた。
外に出ると、前に黒い装備を見かけた街道とは少し雰囲気が違っていた。
そうか。前の街道ではモンスターの姿が見えなかったが、こっちでは見える範囲でもちらほらいるのが分かる。
『こっちはモンスターがいるんだな』
「はい。次の町へのショートカットではあるんですが、多少の戦闘があるので、退屈はしないと思いますよ」
『動画で戦闘は見たことはあるけど、リアルタイムで見るのは初めてだから楽しみだ』
『このゲームって冒険者のステ振りいじれるから、個性が出ていいよな』
それは知らなかった。
自分のステータスを表示させる。
敏捷に振れば、もしかしたら動けるんじゃないか。
今まで何度も考えたことではある。
だが、どうせ種族が石で、状態も不動だ。
ステータスを少し上げた程度で動けるとは思っていなかった。
でも、もしかしたら……。
そんな淡い期待を込めながら、少し敏捷に振ってみる。
……。
何も起きるはずがなかった。
分かっていたことだが、少しむなしさを感じながら、元の数値に戻そうとする。
だが、戻せない。
「このステ振りって、自由にできるんじゃないの?」
自分の配信で視聴者に問いかける。
『いや、一回振ったら、課金アイテムがないと振りなおせないはず』
絶望した。
衝動で振ったのが間違いだった。
ステータスの欄にある「敏捷:1」の文字が少し寂しく見えた。
コメント欄を見ると、同情しているやつと笑っているやつが半々ぐらいだった。
笑ってくれる奴がいて、少し救われた。
「あのモンスター、ちょっと避けられそうにないですね」
サン社員の配信から声が聞こえてくる。
『あの猿か』
『弱いのにスピードだけは速くて厄介なんだよな』
画面には三体の猿が道をふさいでいる。
相手のモンスターがこちらに気づいたようだ。
「それでは、倒しますね」
そう言うと、サン社員は武器を取り出す。
サン社員はナイフを使うようだ。
重かったり大きかったりする武器は動きを制限してしまうので、敏捷を伸ばしている彼にはお似合いの武器だ。
そんなことを思っていると、真ん中の猿が左右の猿に何か合図をしている。
そして、三匹がバラバラに行動し始めた。
サン社員を囲い込むような動きだ。
それでもサン社員は動かない。
ザッという音が後ろから聞こえてきた。
それと同時にサン社員が振り向き、ナイフを一振りする。
そこには赤いエフェクトだけが残っている。
それを見た残りの二匹が同時に襲い掛かってくる。
猿の攻撃を一匹ずつ冷静に見極め、ナイフを振るう。
気づいた時には、赤いエフェクトが二つ残っただけだった。
サン社員は武器をしまった。
「それでは、先に進みましょうか」
『すげぇな』
『なんかあっという間に終わったな』
『今度、対人戦しませんか?』
コメント欄の進みがいつもより早い。
そういう俺も、今このゲームのトップ層の戦闘を見ることができ、感動して声が出なかった。
「いえ、人より少し長い時間ゲームをしてるだけですよ」
そう言うと、街道を進み始めた。
その後も何度か戦闘があったが、難なく倒していた。
本来のルートだと、この倍の数は出てくると聞いて驚愕した。
そんなこんなで、目的の町までもう少しというところまで来た。
『あいつ、これまでのやつよりでかくない?』
「はい、いわゆるボスですね」
そこにいたのは、これまでの猿よりも二回りも大きく、所々白い毛が混じっていた。
『あいつってどれくらい強いん?』
『レベル20の三人だときつくて、25レベル三人で適正って感じかな』
『30でも一人だと苦戦はするね』
『あの取り巻き二体が面倒くさいんよね』
『あいつらの連携で何度死んだことか』
「それでは早速行きますね。少々時間が掛かりますので」
そう言って、サン社員は戦闘を開始した。
やはりサン社員でも、この三体の連携には苦戦しているようだった。
「右のやつが頭を狙ってきて、ボスが足払い、飛んだところを最後のやつが着地狩り。それをボスが鳴き声を上げた後にしている?」
『やっぱそう思うよな』
『でも違うんすよね』
『検証した奴がいたけど、結局法則がなくて関係ないって結論になったんだよね。それ』
「高い声と低い声の時は検証してた?」
『もちろん』
『それもなさそうだって』
「じゃあ、ステップは?」
『ステップ?』
「あの、トントンって跳ねるやつ」
『そんなんあったっけ?』
「高く鳴いた後、ステップ二回だとさっきの攻撃をしてた。低く鳴いた後、二回ステップだと後ろのやつから攻撃って感じだったと思う」
『マジ?』
「つまり、攻撃する相手はステップの回数で決まっていて、鳴き声の高さで攻撃する場所が変わるんだ」
そんなやり取りをしていると、低く鳴いてステップを二回した。
後ろからの攻撃が飛んでくるが、何とかサン社員は躱す。
『ほんとに来たな』
そういえば、これまでの道中の雑魚戦でも、猿たちはそんなことをしていた気がする。
たしかステップ一回はリーダーっぽいやつの攻撃だった。
高い時は上半身、低い時は下半身への攻撃だった気がする。
「サン社員、俺の考えを伝えておく。ステップ二回の高い鳴き声は、画面から見て左の取り巻き、低い時は右からの攻撃。ステップ一回の時はボスからの攻撃で、鳴き声が高い時は上半身、低い時は下半身への攻撃だと思う」
サン社員が頷く。
そこからサン社員の受けるダメージは、目に見えて減っていた。
途中、ステップをしない攻撃もあったが、そこは安全を取って避けることに専念していた。
どうやらステップなしの攻撃はランダムらしい。戦闘中にも二回しか使ってこなかったので、かなり珍しい攻撃パターンなのだろう。
「いや、お見事ですね」
サン社員が俺を褒めてくれた。
『予想が当たってそうだったな』
『あれで一気に戦いやすくなってたね』
予想が当たっていたのは嬉しいが、少し気恥ずかしくなってきた。
『それじゃあ町まで行ってみようか』
声に出すと感情がばれそうなので、コメントを書き込んだ。
「ふふっ、分かりました。それでは向かいます」
そう言って、また歩き出した。
そうして、道の先に町が見えた。




