第二十八話
「それは隣の領に行って調べてこいということでしょうか?」
サン社員が、はっきりさせるために領主へと質問する。
「……」
質問しても答えてくれない。
だが、もしかすると質問の仕方が悪いのかもしれない。
俺は一つ試してみることにした。
『「隣の領」じゃなくて、「様々な場所に出向き」とかに変えて、もう一回質問してもらえないか?』
「領主様、黒い装備の冒険者を、様々な場所に出向いて調べてほしいということでよろしいでしょうか?」
一瞬驚いた顔をして、領主が深く頷いた。
「そうだ。もちろん報酬もある。頼む」
「承知しました。それでは調べてまいりますので、この場は失礼させていただきます」
一礼して、その場を辞した。
二人とも噴水の前まで帰ってきた。
「二人ともお疲れ様」
ねぎらいの言葉をかけると、二人とも少し疲れたような顔をしている。
「いえ、これも進化のためですから」
そう言って、サン社員は力なく笑う。
「僕は後ろで見てるだけでしたけどね……」
炎児は少しいじけたようにつぶやいた。
「あっ、そういえば。聞いてもいいですか?」
炎児が手を上げて聞いてくる。
「はい、炎児君。何でしょう?」
俺が答える。
「クエストが出てから最初にサン社員さんが質問したとき、領主様は黙ったままだったと思うんですけど、二回目は答えてくれたのは、なぜでしょうか?」
サン社員は答えがなんとなく分かっているのか、すまし顔だ。
「いい質問ですねぇ、炎児君。ただ答えを言ってもつまらないので、ヒントを出します。ではヒントです。彼らは貴族です」
「はい、そうですね。彼らは貴族ですね」
首を傾けながら答える。
『貴族だとなんであの反応になるのん?』
『いや、シラネ』
『答えるとなんかまずいんか?』
『あっ、そういうことか』
コメント欄でも、何人かは分かっているようだ。
「……わからないので、答えを教えてください」
炎児はギブアップのようだ。
「じゃあ、教えていくな。って言っても、これは俺の想像だから、正しいとは限らないことに注意しておいてくれ」
本当にこれが理由なのかは分からないので、一応注意しておいた。
「領主様は貴族でこの地域を治めていて、他の領も同じく貴族が治めているという前提がある。領主様が黒い装備の冒険者を調べるように依頼をしてきて、サン社員が『隣の領に行って調べてくるのか?』という質問をした。それに領主は答えなかった。そして俺が、隣の領と指定するんじゃなくて、色々なところとぼかすようにサン社員に指示した。これがさっきのやり取りになる」
「でも、なんでぼかしたら答えてくれたんですか?」
「あくまで想像なんだが、領主様とリーン伯爵が同じ貴族だからって、同じ考えとは限らない。領地が違えば、それぞれ守るものも違う。仲がいいとは限らないし、場合によっては利害が対立している可能性だってある。その相手の領を調べてこいなんて言ったら、どうなると思う?」
「あぁ、まずいことになりそうですね。でも、それは聞かれてたらの話では?」
「それはそう。だけど、そうだな。炎児の家って盗聴器ある?」
「はっ!? いや、あるわけないじゃないですか!」
「絶対?」
「絶対です」
「コンセントの中とか、電源タップの中身を確認した?」
「いや……。そこまでは見てないですけど……」
「ちょっと不安になっただろ? それと同じで、領主の館の中でも、不安があるんじゃないかな。領主という立場だからこそ、誰かに会話を聞かれている可能性まで考えて発言する必要があるんだろうな」
『確かに筋は通りそう』
『貴族ってめんどくさそうだな』
「まったくだね。あんなことを常に考えて発言しないといけないなんて。俺なら一日ももたなそう」
「僕には無理ですね」
「それで、これからどうしましょうか?」
サン社員が軌道修正を図ってくれた。
「おっ、そうだね。俺的には、このままサン社員と炎児には、この前新しく解放されたっていう町に調査に行ってほしいんだけど……」
「私は大丈夫ですよ」
サン社員は協力してくれるようだ。
「あの、次の町ってここから時間が掛かりますよね?」
「はい。確か、私が初めに行ったときは一日かかったかと思います。でも、一度行けばショートカットが解放されるので、そんなに時間はかからなかったと思います」
「炎児は行ったことある?」
「……ないですね」
「やっぱり?」
「ご存じかもしれませんが、ずっとここでPvPしてましたから」
少し困ったような笑顔を浮かべる。
「それじゃあ、炎児には、もし黒い装備の連中がこっちで何か動いたら、始まりの町を見ていてほしいかな」
「了解しました」
「サン社員。申し訳ないけど、一人で行ってもらえるか?」
「はい。もともとソロで活動しているので、問題ありませんよ」
「よろしく頼む。それで俺は……」
「配信をしていてください」
「うん、それしかできないからね。サン社員も配信をつけてくれるとありがたい。今回は俺も何か気になるものがあったら、観察してみるから」
「それでは、明日から調査を開始しましょうか」
「そうだね。じゃあ、今日はここまでにしよう」
「はい」
サン社員はそう言うと、隣の町へ向かう準備を始めた。
「炎児も頼むぞ」
「はい。……今度は僕も何か役に立ちたいです」
「期待してるよ」
こうして、俺たちは新たな調査を始めることになった。




