第二十四話
配信画面が低くなる。
どうやらサン社員が、見つからないように身を屈めたようだ。
『すみません、ここからは黙ります』
俺の配信に、サン社員が書き込んでくる。
「分かった。くれぐれも危険だと感じたら、すぐに逃げてくれ」
またサムズアップをして答えてくれた。
そうしているうちに、少しずつあの男に近づいていく。
どうやら男の他にも、何人かいるようだ。
周りは森になっているため、隠れる場所は意外と多そうだ。周りの環境は、俺たちに味方している。
音を出さないように慎重に歩みを進めていき、男の声が微かに聞こえてくる位置まで来た。
サン社員は聞こえることを確認し、近くにある木の裏に隠れるようだ。
サン社員の配信音量を最大にして、彼らの会話を盗み聞きする。
「でも、最初は条件のためだったんすけど……NPCの反応見るのって、結構面白いっすね」
「だろ? あいつら、最初の方は馬鹿の一つ覚えみてぇに一つのリアクションしかしなかったんだけどよ、最近は何か知らねぇけどバリエーションが増えて、ちょっと脅すだけで顔色変えて、おもしれぇんだよ」
「めっちゃ、わかります! 昨日の店のやつなんて、物壊して睨んでやったらビビッて何も言ってこなかったっすよ」
「お前、えげつないことしてんな。でも、それでいい。NPCと仲良くしてたら、俺たちの邪魔になる」
「だから、新しく来た奴らにNPCを信用するなって言ってたんすか?」
「そういうことだ」
どういうことだ? それに、条件って何だ? こいつらの目的が見えてこない。その目的にはNPCが邪魔なのか? 情報がなさ過ぎて、何もわからない。
「でも、進化の条件、もう結構満たしてきたんじゃないっすか?」
ドスッという音の後、誰かがうめいた。
「てめぇ、何口に出してんだよ」
先ほどの男だろうか。一段と声が低くなっている。
『おい、今、進化って言わなかったか?』
『確かに言ってた』
『あいつら、なんか情報持ってんのか?』
『それどころか、条件まで知ってるってことだろ? 会話的に』
「ちょっと待って。まだ会話は続いてる」
俺はそう言って、また会話に耳を傾ける。
「で、でも。いいじゃないっすか。だって、俺達みたいなやつ専用なんでしょ? 普通の冒険者には関係ないじゃないですか?」
俺達みたいなやつ専用?
「ああ、確かに普通の奴らにゃ関係ない。でもな、規律ってのは重要なんだよ。たとえ仲間同士であっても、重要な情報ってのは、こんな誰が聞いてるかもわかんねぇ場所で言うべきじゃねぇ」
「す、すみません」
「……おい。今、何か聞こえなかったか?」
「そうっすか? 風が吹いて木が揺れた音とかじゃないっすか?」
「そうかもしれねぇ。でも、不安の芽は潰しておくべきだ。この辺りを確認しておくぞ」
まずい。あいつらから少し離れているが、このままでは、あと数分もしないうちに見つかる。
「……まずい」
サン社員が小さく呟く。俺にも、その声が聞こえてきた。どうやらサン社員も同じ考えだったようだ。
『逃げます』
コメントが来た。
『そうしてくれ。絶対に戦わないでくれ。サン社員の敏捷値で逃げ切れそうか?』
通常であればステータスへの言及はマナー違反だが、そんなことは言ってられない。
『大丈夫です。敏捷特化の育て方してますから』
大剣のあの男は、見た目で言えば筋力や耐久に特化しているタイプに見えた。それなら、サン社員は逃げられるだろう。でも、他のやつらはどうだろうか。一人ぐらいは敏捷に特化しているやつがいるかもしれない。
そう考えている間に、奴らとは距離が取れた。少し安心していたその時、木の枝に体が引っかかり、音を立ててしまう。
サン社員は、既に走り出していた。存在は奴らにバレているだろう。音など気にせず、走り抜ける。
「逃がすかッ!」
後ろから大声が聞こえてきた。その瞬間、サン社員の横を何かが通り過ぎて行った。あの男が何か投げつけたのだろう。その何かがぶつかった木には穴が開いていて、向こうの景色が見えている。
あれをまともに受けていたら、ただでは済まなかっただろう。
街道が見えてきた。
サン社員は、そのまま町へ駆け込んでいく。
しばらく走ったところで振り返る。
……誰もいない。
「……撒いたようですね」
どうやら、何とか逃げ切れたらしい。
向こうからサン社員が近づいてくるのが見える。
画面を見ると、配信は終わっている。
「おかえり、サン社員」
サン社員は操作して、いつもの装備に戻った。
「はい、ただいま戻りました。すみませんが、一度ログアウトさせていただきます」
「ああ、そうしてくれ。顔は見られてないと思うけど、絡まれたら面倒くさそうだ」
「それでは失礼します。コメントにはいますので、よろしくお願いいたします」
そう言うと、サン社員はログアウトしていった。




