第二十三話
朝食を取りながら、俺は昨日の出来事を思い返していた。
昨日は色々なことがあった。大きく分ければ、調査と領主との面会。
この二つだ。
だが、そこで得られた情報は多かった。
領主から聞いた話は、俺にとって衝撃的なものだった。
NPCたちが冒険者について口を濁していたのは、単に口止めされているだけではなかった。過去に冒険者によって住民が傷つけられたり、町に様々な問題が起きたりしたため、領主が情報を制限していたのだ。
とはいえ、領主の話だけを鵜呑みにするわけにはいかない。そう考えた俺たちは、実際に冒険者と住民に話を聞きに行った。
出てきたのは、一部の冒険者が迷惑行為をしているという話だった。
それでも、すべての住民が冒険者を嫌っているわけではないのは、せめてもの救いだ。
不思議なのは、その一部の冒険者には共通する特徴があったことだ。
黒い装備、大剣、烏の紋章。
複数の事件で、これらの話が出てきたのだ。
それと、そいつらは不穏なことを言っていた。
『NPCを信用するな』
NPCはゲームの中で冒険者を助けてくれる存在だ。
それを信用するなとは、どういうことなのか。
その目的が見えなかった。
だから今日は、黒い装備の冒険者を調べる必要がある。
自分の中で考えが整理できたので、ゲームにログインした。
いつものように配信を開始する。
まずは、朝整理した内容を簡単に説明していく。
今日の調査をする以上、視聴者とも情報を共有しておいた方がいい。
「それじゃあ、振り返りはこれまでにして、昨日の最後に言ったように、今日は黒い装備のやつらを調べたいと思う」
『賛成』
『やっぱりそいつらだよな』
『ログインしました』
そのコメントのすぐ後に、サン社員が俺の目の前に現れた。
「調査に協力してくれるってことでいいのか?」
「はい、もちろん。これは私のためでもあります。何より、ちょっと私、ワクワクしてるんですよね」
そう言うサン社員の目は、やる気に満ち溢れていた。
「でも、仕事とかって大丈夫なのか?」
「はい。大丈夫ですよ。もう隠居の身なので、時間だけはたっぷりあります」
その答えに、もしかしたらサン社員は、俺が思っているよりもっと年上なのかもしれない。
ちょっと態度を変えたほうがいいのかと考えたが、それはそれで悲しみそうなので、これまでどおり接することにした。
「ありがとう。それじゃあ、みんなに聞きたいんだけど、黒い装備の奴ってどこにいると思う?」
『昨日の話だと、どこにでもいそうだよな』
『どっか張ってれば、会えそうな気がするけど』
『でも、やっぱり街道じゃない?』
『そうだよな、狩場独占してるらしいし』
『まぁ、そこにたまってる可能性は一番ありそう』
『烏の紋章の冒険者を見たって情報もあるし』
「確かに……そうだよな。行くなら街道か」
「そうですね。それでは、私は街道に向かいましょうか?」
「ああ。そうしてくれるか。あ、あと、その装備は変えていった方がいいと思う。その装備、ちょっと派手すぎるから、なるべく地味なものにしてくれるか?」
「おっと。そうでしたね」
サン社員がそう言うと、画面を操作して装備が変更された。初心者から少し経ったぐらいの防具になっている。
「うん、それなら目立たないし大丈夫そうだね」
「はい。それで、私の方の配信はつけたほうがいいですよね?」
「すまん。そうしてくれると非常に助かる」
「承知しました。では、つけておきますね」
俺の画面が反応する。サン社員が配信を開始した通知が飛んできていた。
「それでは、行ってまいります」
サン社員は、目撃情報があった街道に向かって歩いて行った。
サン社員が到着するまでに時間がある。
そこで、視聴者とともに考えたいことがあるのを思い出す。
「そういえばさぁ、証言で出てきた『NPCを信用するな』って、なんでだと思う?」
『NPCに何かされたんじゃない?』
『単純にNPCが嫌いなんじゃね?』
『でも、新人にまで言う意味がわからん』
「そうなんだよね。文字通りの意味で受け取れば、ただそいつがNPC嫌いってことなんだよ。あと、新人にも何かあってほしくないから助言してるっていう可能性もある。でも、NPC側も何か言ってたよな?」
『ああ、住民は冒険者を嫌ってるんだっけ?』
『そういえば、そんなこと聞いたな』
「はい、確かに。住民に聞いているときに、そのような声はありました」
住民に聞き込みをしてくれて、今も移動中のサン社員が答えてくれた。
「そうなると、互いに嫌い合ってるってことになるんだよな」
『でも一部だろ?』
『特に気にするようなことじゃないんじゃね?』
『気にしすぎるとハゲるぞ』
「おい、髪の話はやめてくれ。この間、部屋の掃除をしてる時に自分の抜け毛の量にビビって、いいシャンプーを買った俺にはタイムリー過ぎる」
『わかる』
『一人暮らしだと自分の抜け毛の量にビビるよな』
『みんな一回は通る道だよな』
視聴者が共感してくれた。ミンナスキ。
「って、そうじゃない。今は住民と冒険者の関係についてだよ。俺は、黒い装備のやつらが関わっている以上、無関係じゃない気がするんだよ」
「例えばさ。黒い装備の連中が住民に迷惑をかける」
「一部の住民は冒険者を嫌う」
「その一方で、冒険者には『NPCを信用するな』って吹き込む」
「そうしたら、どうなる?」
『お互いに警戒する』
『仲悪くなるな』
『分断工作ってこと?』
「まだわからない。でも、もしそうだとしたら――」
「ソラさん、街道に着きましたよ」
サン社員の配信画面を見ると、すでに街道へ到着していた。
「おっと、結構時間がたってたな。それじゃあ、そのまま黒い装備のやつらが目撃された場所まで行ってくれるか」
「承知しました」
そう言って、街道から少し外れて歩いていく。これから向かう場所は、街道から少し離れた森の中にある。その森に近づくと、かすかに声が聞こえてくる。
『サン社員、ここからは慎重に』
俺の声は配信に載っているので、周りに聞こえるわけではないが、念のためコメントで書き込む。
サン社員は、サムズアップで答えてくれた。
そのまま物音を立てないように、慎重に進んでいく。
少し先に、開けている場所がある。
『あれじゃないか?』
サン社員の視線の先。
街道から少し外れた場所で、数人の冒険者がモンスターを狩っていた。
その全員が、黒い装備を身につけている。
そして、その中に。
「……いた」
俺は画面の一人を見つめる。
大きな剣。
黒い装備。
烏の紋章。
以前、俺が観察しても詳しい情報を得られなかった、あの男がそこにいた。




