第二十話
「確かにあの少女と少し遊びましたが……」
こちらの意図が読めないのか、少し困惑した表情で見ている。
「ああ、ごめん。ちょっと端折りすぎた。これから住民と冒険者に聞き込むにあたってなんだけど、住民の方は同じ住民に聞き込みをしてもらおうと思ってるんだ。理由としては、住民たちが冒険者に悪い感情を持っている中、冒険者であるプレイヤーが聞きに行くのは悪手だと思って。だから、誰か住民で協力してくれる人がいないか聞いてみたんだ」
一通り説明すると、サン社員は納得したような表情になった。
「それでも、あれ以降交流はありませんよ?」
「一回だけ聞いてみてくれないか? 今、ここにいる連中で頼れるのは、サン社員のこのかすかな繋がりだけなんだよ。頼む」
心の中で土下座し、誠心誠意頼み込む。
「……わかりました。一度、彼女に聞いてみます」
そう言うと、噴水のそばで遊んでいる少女のもとに歩いて行った。
『これで協力してくれるといいな』
『成人男性が少女に声かける。これって、じあ……』
「それ以上はやめてくれ。サン社員は俺たちのために聞きに行ってくれてるんだぞ」
俺の頭にも一瞬だけよぎったが、口には出さなかった。
サン社員と少女は、ここから見た感じでは和やかな雰囲気だ。
二人とも笑顔で話している。少しだけ話している声も聞こえてくる。
「……というの……したいのですが」
「……遊ん……れる?」
「もちろん」
「じゃあ……」
少女が首を縦に振った。
サン社員が一礼してこちらに戻ってくる。
「何とか了承していただきました。代わりに、彼女と何回か遊ぶ約束を取り付けられてしまいましたが……」
そう言うサン社員は、困っているのか喜んでいるのかわからない、何とも言えない表情をしていた。
「すまん、サン社員。それとありがとう。それじゃあ、そのまま女の子の対応をお願いしてもいいか?」
「もちろん、そのつもりですよ。安心してください」
これで住民への対応は決まった。
「それじゃあ、冒険者への聞き込みは他の人にお願いしてもいいか?」
今の視聴者は十人程度が見てくれている。
『了解』
『任せて』
『俺、ギルドに聞き込み行ってくるわ』
「お願い。同じ人から聞くんじゃなくて、いろいろな人に聞いてほしいから、一旦こっちで適当に分けるけどいい?」
『いいよ』
『よろしく』
「それじゃあ、聞き込みに行く場所を言ってくな。まずはギルド。これはさっき立候補してくれた奴と、あと二人くらいは行ってほしい。次に武器屋と市場の方向に二人。この噴水周りで二人。あとは街道に二人。こんな感じの人数割りで行きたいと思う」
そう言うと、適当に人を割り振っていった。
サン社員がこちらに少女を呼んでいる。
少女がこちらに一生懸命走ってきた。そして、俺の前で二人は合流した。
サン社員の考えはなんとなくわかる。最初の聞き込みの相手は、この少女なのだろう。
「ねえ、お兄ちゃん。それでどこに聞き込みに行くの?」
顔を少し傾けて、少女は聞いてくる。
「お兄ちゃんですって」
俺がそうつぶやく。
『あら~、彼はお兄ちゃん呼びがいいんですかね~』
『お兄ちゃん呼びがいいんですね~社員氏~』
『五月蠅い』
『ごがつ……何い?』
まだ残っていた視聴者が冷やかしていた。ちょっと悪ふざけが過ぎたようだ。
「ごめんごめん。それじゃあ、女の子に聞いてみてくれないか?」
「……承知しました」
そう言うサン社員は、少し呆れたような表情だった。
一つ咳をして表情を整えてから、少女へ向き合う。
「まずは、貴女にちょっと聞きたいことがあるのですが、いいですか?」
「うん。いいよ。なに?」
「この町の冒険者はみんな怖いですか?」
「う~ん……怖い人もいるけど、そうじゃない人もいるよ?」
この少女は、少なくとも冒険者全員を怖がっているわけではないことがわかった。
「それじゃあ、怖い人ってどんな人?」
「この前、遊んでたらお道具屋さんの方で大きな音がしたの。そしたら、冒険者さんが置いてある置物を割ってたの。それでそのまま歩いて行っちゃったの。その冒険者さん、嬉しそうにしてて怖かったなぁ」
「聞かせてくれて、ありがとうございます。それは怖かったですね。同じ冒険者として謝罪します。後ほど、その置物の持ち主を教えてもらえますか? 私が弁償に行こうと思います」
「うん。わかった。それじゃあ、その人のところにも連れてくね。わたしに聞きたいことはもうないの?」
「はい。もう大丈夫です」
「それじゃあ、聞き込み?ってのに行くの?」
「はい。それじゃあ、行きましょうか」
そう言うと、サン社員と少女は歩いて行った。
「なんか申し訳ないな」
『うん』
『ちょっと自分の行動を顧みるわ』
『サン社員に配信つけてもらわなくてよかったの?』
視聴者を見ると、その中にサン社員の名前はなかった。
「いや、デートを盗み見るなんて、野暮なことはしないよ」
『そうだよな。デートだもんな』
『NPCと初めてデートしたプレイヤーなんじゃね?』
先ほどのことも忘れて、その話で少し盛り上がった。
サン社員には後でお小言をもらいそうだが、今はそんなことより、少女が教えてくれた事件の方が気になっていた。




