第十二話
次の日、朝食を取りつつ考える。
NPCが高レベルプレイヤーにだけ反応しているという仮説を確かめるには、次の検証材料が足りなかった。
なぜなら、次に確認したいのは異形型の高レベルプレイヤーだからだ。
あれからコメントでも聞いてみたが、どうやら視聴者やそのフレンドの中にも、異形型の高レベルプレイヤーはいなかった。
調べてみてわかったが、異形型は育てるのが難しいらしい。
その理由は金だ。
人型は店売りの装備や一般的な武器を使うことができるが、異形型はそうはいかない。
武器を作るには特別なオーダーをしなければならないし、手間もかかるため技術料も高い。
そのため、頻繁に装備を買い替えることができず、適正レベルより弱い装備を使い続けているプレイヤーも少なくないという。
その結果、異形型には高レベルプレイヤーが少ないらしい。
となると、野良で見つけてくるしかない。
だが、自分は動けないし、また視聴者に助けを求めるのも心苦しい。
まあ、石なのだから三年くらいは待てると自負している。
その間にこの件は解決していそうだけど。
ログインし、配信を開こうと画面を操作する。
すると、ステータスのタブが点滅していた。
何かあったのだろうかと思いながら、ステータスを開く。
【ステータス】
個体名 :ソラ
種族 :石
ジョブ :無職
レベル :7
生命力 :240
魔力 :0
筋力 :0
耐久 :240
敏捷 :0
器用 :0
知力 :79
幸運 :36
スキル
・硬化 Lv.10
・ヒール Lv.1
・観察 Lv.3
・分析 Lv.1
称号
・異邦人
状態:不動
レベルが上がっていた。
これまでと同じように、生命力と耐久を中心にステータスが伸びている。
それよりも気になるのは、観察のレベルが上がっていることだった。
詳細を確認する。
【観察 Lv.3】
効果:周囲を凝視することにより、経験値を微小に取得。
得られる情報が多くなる。
成長段階を確認可能。
取得条件:対象を注意深く見ることにより取得可能。
成長段階を確認可能?
どういうことだ、これは?
実際に見てみた方が早いか。
周りを見ると、ちょうど炎児がPVPステージの横で誰かと雑談している。
無断で見ることを心の中で謝りながら、炎児に観察を使用する。
【観察】
対象:炎児
前回観察:1日前
筋力:微増
敏捷:変化なし
魔力:変化なし
戦闘技術:上昇
総合的な成長度:中
成長段階:第一段階MAX
これはかなりいい情報だ。
この第一段階MAXという表記は、おそらく第一段階の上限を意味しているのだろう。
だが、昨日炎児はレベルが一桁だと言っていた。
まるで検証に協力するためにレベル10になってくれたようなタイミングだ。
......いや、さすがに考えすぎか。
それでも、あいつならやりかねないと思ってしまう。
もしかして、心までイケメンなのか?
そんなことを考えていると、ちょうどプレイヤーがこちらに歩いてきていたので、観察をかける。
【観察】
対象:人型プレイヤー
成長段階:第二段階
やっぱりそうだ。
見たのはまだ二人だけだが、この追加された効果について考えてみる。
この『成長段階を確認可能』という効果は、大まかではあるが、そのプレイヤーのレベル帯を知ることができるものだと考えられる。
第一段階はおそらくレベル1~10。
MAXが付いていればレベル10。
付いていなければ、レベル1~9。
同じように第二段階はレベル11~30。
MAXが付いていればレベル30。
付いていなければ、レベル11~29のどれか。
そう予想できる。
レベルの詳細まで分かれば理想だったが、そこまでうまくはいかないようだ。
それでも、大体のレベルの見当がつくようになったのはうれしい限りだった。
そういえば、考え事ばかりで配信をつけるのを忘れてた。
配信を開始すると、すぐに見覚えのある名前がコメント欄に並び始めた。
『石ニキオッスオッス』
『いつもよりちょっと遅めか?』
『それで今日も検証?』
「みんなおはよう。考え事してたらちょっと遅れた。今日も検証の予定だけど、少しだけ進展しそうです」
そう言って、観察のスキルがレベルアップしたことを伝える。
そして今回追加された効果について、自分なりの考察を説明した。
「......でも、まだ仮説の段階なんだけどな」
『こりゃまた役立ちそうなこって』
『今日も検証の続きだね』
『俺LV10です』
炎児からコメントが来た。
『確認が必要そうなのでそちらに向かいますね』
続いて、サン社員からもコメントが来る。
そちらを見ると、炎児がこちらに手を振っている。
今日もいい笑顔だ。相変わらずイケメンである。
さっき勝手に観察スキルを使ったことに罪悪感が湧き、また心の中で謝った。
ということは、あの表記について少なくとも一人は当てはまっていることになる。
ふと影が差す。
見上げると、そこにはサン社員が立っていた。
「それなら、私も見ていただいた方がよろしいと思い、ぶしつけながら参上いたしました」
そう言って、軽くお辞儀をする。
「ありがとうございます。その厚意に甘えさせていただきます。では、失礼します」
そう言うと、観察を使用する。
【観察】
対象:サン社員
前回観察:1日前
筋力:変化なし
敏捷:変化なし
魔力:変化なし
戦闘技術:変化なし
総合的な成長度:微小
成長段階:第二段階MAX
「観察した結果、第二段階MAXと記載がありました。ということは、もしかして......」
「はい。確かに今、レベル30の上限で止まっています」
これだけでは、すべての段階が同じ規則で区切られているとは断言できない。
それでも、観察スキルについての考察はかなり有力になった。
「じゃあこれで、街行くプレイヤーを観察していきます」
『それ、いつもと同じじゃね?』
「いや、今回はちゃんと目的があるから」
そんな人を暇人みたいに言わないでほしい。
確かに、こんな暇つぶしをしているやつなんて、探した限り俺しか見つからなかったけど。
人型のプレイヤーがやって来る。
【観察】
対象:人型プレイヤー
成長段階:第一段階
「次」
別のプレイヤーがやって来る。
【観察】
対象:人型プレイヤー
成長段階:第二段階
「次」
『検問かな?』
「違います。次」
『おい、コメントもさばき始めたぞ』
おっと、まずい。
淡白になりすぎた。
おっ、ここで初めての異形型だ。
あれは虫人とでも言えばいいのだろうか。
【観察】
対象:虫人
成長段階:第二段階
惜しい。
今見つけたいのは、レベル30――つまり第二段階MAXの異形型プレイヤーだ。
でも、この感じなら今日中に見つけられそうだ。
「惜しい。第二段階だけど、MAXじゃない」
『おっ、すごいな』
『頑張ってるねぇ』
よし。
少し気合を入れていこう。
決意を新たにし、観察に戻る。
こうして見ると、やっぱり人型のプレイヤーの方が多い。
人型と異形型。
体感では、五人に一人くらいだろうか。
おっ、珍しい。
異形型の三人パーティーだ。
どこかのゲームで見たような、緑色の肌をした背の小さいゴブリン。
赤い帽子をかぶった小柄な男は、レッドキャップとでも言えばいいのだろうか。
そして、ゴブリンを一回り大きくして、がっしりとした体格にしたようなホブゴブリン。
そんな、どこかファンタジーで見かけそうな三人組だった。
その三人に対して観察をかける。
【観察】
対象:ゴブリン
成長段階:第一段階MAX
対象:レッドキャップ
成長段階:第一段階MAX
対象:ホブゴブリン
成長段階:第二段階
残念ながら、三人とも求めている条件には当てはまらないようだ。
その後も、スライム、リザードマン、鳥人、ウィルオウィスプなど、さまざまな異形型プレイヤーを観察した。
しかし――。
誰一人として『第二段階MAX』の表記を見つけることはできなかった。
結局、その日は目的のプレイヤーを見つけることができなかった。
のんびりとした一日だった。
こんなふうに、さまざまな異形型プレイヤーをじっくり見ることなんて今までなかったので、それはそれで少し面白かった。
......一人だけ。
妙なやつがいた。
別に見た目が異常だったわけじゃない。
それなのに、なぜか目で追ってしまった。
なぜ気になったのかは、自分でもわからない。
なんとなく、その人物に観察を使った。
【観察】
対象:???
成長段階:???
スキルのレベル不足だったのか。
それとも――。
あれは、一体何だったのだろうか。




