第十三話
昨日までの検証で、NPCが高レベルのプレイヤーに対して、何らかの反応を示していることはほぼ間違いなさそうだった。
人型でも異形型でも、高レベルになればNPCの態度が変わる。
ただ、それが分かっただけだ。
なぜNPCがそんな反応をするのか。
それについては、何一つ分かっていない。
『それなら直接聞いてみればいいじゃね』
言われてみれば、その通りだ。
「お前、天才か?」
ずっと検証ばかりしていたせいで、完全に盲点になっていた。
そうだ。
NPCが何かを知っているのなら、本人たちに聞いてみるのが一番早いじゃないか。
「というわけで、NPCに直接聞いていただける方、募集します」
『じゃあ僕が行ってきます』
炎児が立候補してくれた。
いつもおんぶにだっこで、申し訳なくなってくる。
「すまないねぇ、いつも」
少ししわがれた声を意識して言ってみる。
『それは言わない約束だよ、お父つぁん』
こいつ、イケメンの上にノリまでいいのか。
「冗談はここまでにして、炎児って配信付けられたりしない?」
『へえ、それはどうして?』
「いや、NPCの反応をリアルタイムで見たくて。NPCの回答をいちいち報告するのも面倒くさそうだし、それなら配信してもらって、そこに俺がコメントしたほうが楽かなと思って」
『了解です。じゃあ配信やってみますね。何か指示があればコメントでもらう感じでいいですか?』
「うん、それでお願いします」
炎児の配信が始まる。
いわゆるミラー配信の形をとっている。
そこに俺は参加した。
「あ~あ~、ソラさん聞こえてますか?」
『うん、大丈夫そう』
「立場が逆になってるの、ちょっと新鮮ですね」
『俺もそう思ってた』
ちょっと気恥ずかしい。
「じゃあ、早速行ってきますね。道具屋のあの人でいいですか?」
『うん、お願い』
炎児が道具屋に入っていったことを確認し、配信画面に目を移す。
道具屋の中は、さまざまなものが置かれている。
棚には緑色や黄色、赤色の液体が入った瓶や、ボール状の何か、日常で使う紙や筆記用具などが並んでいる。
また、床には壺や奇妙な置物があり、天井にはひもがかけられ、何かの葉っぱがつるされている。
すべてが目新しく、見ているだけでも楽しい。
そして、炎児は窓から見えていたNPCのおばさんの前に立った。
「こんにちは、おばちゃん」
「おや、炎児ちゃん。はい、こんにちは。今日は早いんだね」
どうやら炎児は、この道具屋の店主と親しいようだ。
しばらく世間話が続いていく。
ずっとここのPVPエリアにいるのだから、自然と来る回数も多くなり、親しくなったのだろう。
『初めに何でもないことを聞いてみたい。人気の店とか聞いてみてくれないか?』
「そうだ、おばちゃん。この辺りで人気の店ってある? 初めて来る人に、この街を案内したくて」
「そうだねぇ。食べ物だったら、向かいのパン屋は押さえておきたいねぇ。ちょっと変わったものでいけば、この店の裏の通りにある定食屋も地元民からは結構人気があるよ。あと、観光で言えば、あの噴水は鉄板だろうね」
「へぇ~、裏通りに定食屋なんてあったんですね。知らなかった。教えてくれてありがとう。今度、連れていってみます」
普通の会話だ。
特に有益な情報はないように思える。食べ物も、自分ではどうしようもないし。
『異形型のプレイヤーについて、どう思ってるか聞いてほしい』
「そうだ、連れてこようと思ってるのが人とはちょっと違う見た目なんだけど、大丈夫かな? この辺の人がびっくりしたりしないか心配で」
「大丈夫じゃないかしら。最近そういった人も多くなってきて、邪険にする人も多少はいるかもしれないけど、ほとんどの人は気にしてないわよ」
少し笑顔を浮かべて答えてくれた。
「そうなんだ。安心したよ」
異形型についても、特に忌避感があるといった様子はない。
今のところ、普通の会話が続けられている。
この人は、何も知らないのだろうか。
『じゃあ、高レベルのプレイヤーについて聞いてみてくれ』
「その彼なんですが、レベルが30になって行き詰まってるみたいで。ちょっと慰めてあげたかったんだ」
その話を聞いて、店主は斜め下を向いた。
今まで見せなかった行動だ。
『そのまま、どう思ってるか聞いてみてくれ』
「高レベルのプレイヤーって、どう思います?」
「……ええ、皆さんお強い人ばかりだと思いますよ」
いまいち要領を得ない。
『そのまま、何か知らないか追求してみてくれ』
「僕、まだ弱くて。高レベルになるにはどうすればいいと思います?」
「それは……冒険者の方々が努力した結果なので、私には……」
明らかに、言葉を選んでいる。
さっきまでなら何でもないように答えていたのに、高レベルの話になった途端、妙に歯切れが悪くなった。
「レベル30になると進化できるようになるんだけど、何か情報ない?」
「……さあ。私は詳しくないので何とも……」
「進化する方法って、街の人なら知ってるの?」
「……その話は、私には分かりませんねぇ」
明らかにおかしい。
どうやら、何かを隠していることは間違いないようだ。
「……なんか変ですね」
炎児がつぶやく。
そして、さらに追撃していく。
「おばちゃん、さっきから高レベルの話になると歯切れが悪くない?」
おばちゃんは困ったような、引きつった笑い方をしている。
「そんなことないよ」
その後も炎児は質問をしたが、何一つ情報は得られなかった。
『同じように、他のNPCにも聞いてみてくれないか?』
「了解です」
その後もNPCに質問していったが、高レベルの話になると、やはり歯切れが悪くなった。
炎児にお礼を言って、配信を終了してもらった。
『他のNPCもやっぱり同じだったな』
『高レベルの話になると、みんな口を濁してた』
『これ、NPC全員に同じ設定入ってるんじゃね?』
「……それなら、個人の問題じゃないな」
NPC全体に、何かしらの情報制限がかかっている。
だとしたら――。
一体、誰がそんなことをしている?




