第十一話
「あとは、人型の低レベルと異形型の高レベルがいれば、だいたい見当がつきそうなんだが......。視聴者の中に当てはまるやつ、いないよな」
ダメ元で視聴者に聞いてみる。
『人型だけど、もう結構レベル上げちまったな』
『俺、人型だけどまだレベル一桁です』
『異形だけど、まだ一回目の進化すらしてないな』
おっ。
一人、検証対象になってくれそうな人がいる。
「すみません。よろしければなんですけど、検証に付き合ってくれませんか?」
自分のできる限りの礼を込めてお願いする。
『いいですよ。今そっちに行きますね』
よかった。
来てくれるようだ。
名前は『炎児』というらしい。
......ん?
PVPステージで毎日戦っている、あの赤髪のプレイヤーがこちらに近づいてくる。
一区切りついたから、何か買い物にでも行くのだろうか。
それにしても、近くで見ると結構かっこいいな。
すっと通った鼻筋。
涼やかな目元。
歌舞伎役者のように流し目でもすれば、それだけで誰かが恋に落ちる瞬間を見られそうだ。
そんな彼と自分の状況を比較してしまい、一瞬だけ暗い感情が湧いてきた。
それにしても、炎児さんはいつ来るのだろう。
その間にも、赤髪の彼はこちらへ近づいてくる。
もしかして、こっちに来て俺を踏んでいったりしないよな?
不安になる。
やばい。
まだ近づいてくる。
おい。
止まれ。
止まれ止まれ止まれ。
心の中で必死に念じる。
だが、彼は止まらない。
そして、あと一歩で踏まれるというところで――。
彼が止まった。
「すみません。ソラさんで合ってますか? 俺、炎児って言います。検証に協力しに来たんですけど」
「え?」
......は?
彼が炎児さん?
「よかった~......」
踏まれなくて。
......いや、そんなことより検証だ。
どうやら彼は、俺の配信を開いて見てくれているようだった。
「あっ、あなたがそうでしたか。いつもPVP見させていただいてます。ソラって言います。よろしくお願いします」
炎児さんは少しほっとしたように笑った。
そのまま、少しだけはにかむ。
これを見たのが女子だったら、普通に落ちてそうだな。
「いえいえ、こちらこそ。よく配信を見させていただいてます。第三者目線からの視点なので勉強になりますし、自分では気づいていなかった癖にも気づけたので、とてもありがたかったです」
どうやら、俺が毎日のようにPVPを観察していることについては、あまり気にしていないらしい。
これには少しほっとした。
「それでは早速なのですが、検証のために道具屋の前を何度か行き来していただけますか?」
「了解です。それじゃ、行ってきます」
そう言うと、炎児さんは道具屋の方へ歩いていった。
......そういえば。
サン社員と隊長って、今何してるんだ?
そう思い、周囲を見渡す。
いた。
二人はどうやら、噴水の近くにいる少女と遊んでいた。
鬼ごっこをしているらしい。
隊長が鬼になり、少女を追いかける。
サン社員は、その光景を笑顔で見守っている。
一瞬、監獄案件にならないか心配した。
だが次の瞬間、隊長がサン社員にタッチした。
どうやら今度は、サン社員が鬼らしい。
困ったような顔をしているが、どこか嬉しそうでもある。
......まあ、放っておいても大丈夫そうだ。
炎児は俺の指示通り、道具屋の前を通り過ぎた。
しかし――反応はない。
もう一度。
さらに別のNPCの前も通ってもらった。
結果は同じだった。
確認した後、炎児は俺のところへ戻ってきた。
「僕じゃ反応しないみたいですね」
少し残念そうな表情を浮かべる。
イケメンは、こんな顔でも絵になるのか。
少しずるい。
「でも、これで少なくとも、レベル一桁の人型プレイヤーには反応しない......か」
『どうやら、そのようだな』
『これで種族の方は潰せたか?』
「いや、まだ潰れてはいないな」
俺は考えを整理する。
「今分かってるのは、人型と異形型の低レベルでは反応なし。そして、人型の高レベルでは反応あり」
問題は、
異形型の高レベルだ。
もしそいつにもNPCが反応するなら、種族の可能性はかなり低くなる。
そして次に気になるのは――。
「高レベルって言っても、どのレベルから反応するんだろうな」
「炎児さん。申し訳ないけど、サン社員さんを連れて――」
「呼びましたでしょうか?」
言い終える前に、頭上に影が落ちた。
そちらを見る。
そこにはサン社員が立っていた。
この早さ。
どうやら遊びながら、配信の方もしっかり見ていたらしい。
「すみません。失礼を承知で聞きたいんですけど......サン社員さんって、今何レベルですか?」
少し申し訳なさそうに尋ねる。
「私のレベルですか?」
サン社員は、少しだけ胸を張った。
「もちろん、30です」
「......すごいですね」
Lv30。
ここで、最初に聞いた話を思い出す。
前線のプレイヤーたちが、進化できずに足止めされているレベル。
「なるほど......」
俺は情報を整理する。
Lv一桁の炎児さんでは反応しなかった。
そして、Lv30のサン社員には反応した。
「少なくとも、低レベルでは反応しない。そしてサン社員さんはLv30......。レベルが関係している可能性は、かなり高くなった」
『種族じゃなくてレベル説が濃厚になってきたな』
『でも異形の高レベルがいないと断定はできないな』
その通りだ。
今のところ、
「高レベルのプレイヤーにNPCが反応する」
という仮説が最も有力。
だが、それを証明するにはまだ足りない。
「とりあえず、今の検証はここまでにしましょう」
俺は三人に向かって言った。
「皆さん、検証に付き合っていただいてありがとうございました」
「いえいえ。面白かったですよ」
「また何かあれば呼んでください」
隊長も、
『ワウッ』
と一声鳴いた。
こうして、それぞれが思い思いの方向へ歩いていく。
俺だけを、その場に残して。




