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路傍の石  作者: マグガネ


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第十話

街を見渡すが、いかんせんプレイヤーの数が少ない。これでは確認しようにも、どうしようもない。......いや。それなら、視聴者がいるじゃないか。


「すまん、まだ隊長いるか?」


配信で声をかける。呼ぶのは、あのオオカミのプレイヤーだ。フルネームで呼ぶのはなんとなく気恥ずかしかったので、いつも「隊長」と呼んでいた。


『もちろん、まだいるよー』


どうやら伝わったようだ。


『なんかわかったん?』


『急に黙り込んでいろいろしてたけど、リアルな用事?』


「いや、ちょっと考え事してた。それで、まだ仮説なんだけど、検証したいことがあるんだよ。協力してくんない?」


『いいよ~。じゃあログインすればいい?』


「うん。ログインしたら配信も開いてね。俺、石なもんでしゃべれないから」


『了解。ちなみに、こっちもしゃべれないんだけどね』


「......そういえば、そうだった」


狼もしゃべれないよな。隊長にログインしてもらい、少し待つ。


ちなみに、このゲームではゲーム内から他のプレイヤーの配信を見ることもできる。ゲームには釣りや農業といったサブコンテンツも用意されており、その待ち時間に暇つぶしとして他のプレイヤーの配信を眺めることもできるのだ。ただし、フィールドの一部には配信禁止区域も設定されている。重要な情報が不用意に広まらないようにするためだ。また、このゲームには専用のSNSも存在しており、ネタバレ対策なども徹底されている。


そんなことを考えているうちに、隊長がログインしてきた。改めて見ると、オオカミってかっこいいな。自分の姿と比べて、少し嫉妬してしまう。


隊長は俺の目の前までやってくると、立ち止まった。そして、


『ワウッ』


と短く吠えた。


「それじゃあ、ちょっと道具屋の店先を歩いてみてくれない?」


そう言うと、オオカミは頭を下げ、道具屋の方へ歩いていった。仮説が正しければ、道具屋のNPCの顔が一瞬曇るはずだ。そして、オオカミが道具屋の前を通り過ぎる。だが――。NPCの顔は、笑顔のままだった。


「ん? 変わらない?」


『変わらないって何が?』


どうやら俺のつぶやきが聞こえたらしく、隊長がコメントで尋ねてくる。ここは、自分の考えを伝えておいた方がいいだろうか。だが、検証するには協力者が必要だ。なら、いったん説明しておこう。


「ああ、さっきプレイヤーが大通りを歩いていっただろ? そのときなんだけどさ、NPCの顔が一瞬曇ったように見えたんだ。それで過去の配信のアーカイブを見たんだけど、そうなるようになったのが一昨日くらいからなんだよ。それで、レベルアップと何か関係してるんじゃないかと思って、隊長に道具屋の前を歩いてもらったんだよ」


『なるほど』


『それが確かなら、関連してそうだな』


『でも、ケモ隊長が歩いても反応なかったんだよな?』


そうなのだ。反応がなかった。ということは、ただの見間違いだったのかもしれない。けれど、どうにも諦めきれなかった。


「隊長。ちょっとその辺を歩いてみてくれない? NPCの近くを」


隊長がうなずき、その辺りを歩き始める。すると、子供のNPCがびっくりしたような反応を示した。だが、これは他の異形アバターのプレイヤーでも見られる反応だ。それ以外のNPCは、やはり何の反応も示さなかった。


『俺もそっちに行ってみるわ』


視聴者のサン社員からコメントが来た。ありがたい。検証には数が必要だ。一つの例だけでは、分からないことも多い。


「ありがとう、サン社員」


そう感謝し、いつの間にか隣まで来ていた隊長と一緒に、彼を待つことにした。


数分後。サン社員がやってきた。改めて見ると、顔はどこか印象に残りにくいものだったが、装備がすごい。全身を金色の装備で固めている。名前の通り、本人が光り輝いていた。


「お待たせして申し訳ございません。サン社員と申します。何卒よろしくお願いいたします。獣になってハッスルし隊長様とソラ様で相違ないでしょうか?」


その見た目から、もっと破天荒な人を想像していた。だが、姿とは裏腹に、とても丁寧な言葉遣いだ。そのギャップに、しばらく唖然としてしまう。隣の隊長も同じようだった。


ようやく思考が戻ってきたが、問いかけに対して俺は返事ができない。代わりに、隣の隊長が小さく吠えて反応した。


「ありがとうございます。それでは、道具屋様の前を通り過ぎればよろしいのですね? では、行ってまいります」


一礼して、彼は道具屋へ歩いていく。そして、道具屋の前を通り過ぎた瞬間――。NPCの顔が、一瞬曇った。


「......変わった」


それは、見間違いでも何でもなかった。確かに、表情が変わった。


『今、ちょっと嫌そうな顔したな』


『うん、確かに』


『俺、アーカイブ確認してきたけど、確かに一昨日から変わってるわ』


視聴者も、この変化を確認したようだ。


「でも、なんでサン社員のときはこの変化があって、隊長のときは変わらなかったんだ?」


ここで新たな疑問が生まれた。今のところ、考えられる理由は二つある。


一つ目は、レベルの違いだ。隊長は最近始めたばかりの、いわば初心者。当然、レベルも低い。一方、サン社員は以前のコメントで初期勢だと言っていた。おそらく、レベルもそれなりに高いはずだ。だとすれば、


「一定以上のレベルに達したプレイヤーに対して、NPCの反応が変化する」


という可能性が考えられる。


二つ目は、種族の違いだ。隊長はオオカミの姿をした異形のプレイヤー。一方、サン社員は人型のプレイヤーだ。つまり、


「NPCは人型のプレイヤーに対してのみ、何らかの反応を示す」


という可能性もある。どちらも、今の情報だけでは否定できない。


「......まだ、分からないな」


レベルなのか。それとも、種族なのか。今の情報だけでは、どちらが正しいのか断言することはできなかった。

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