第九話 三万年後の空
結界都市アルマの大通り。
そこを歩く四人組に、道行く人々の視線が集まっていた。
黒髪の青年。
銀髪の男。
岩のような大男。
そして若い女性研究員。
特に目立つのは前三人だ。
ただ立っているだけで威圧感がある。
「見られているな」
ガイアが呟く。
「当然だろう」
ヴェルドが鼻を鳴らした。
「俺たちは強いからな」
「そういう問題じゃありません」
リリアが即座にツッコむ。
レクスは黙ったまま街を見渡していた。
高い建物。
石畳の道路。
行き交う人々。
魔導具を使う商人たち。
その全てが新鮮だった。
「……人類が築いたのか」
ぽつりと漏れる。
リリアは少し誇らしげに頷いた。
「はい」
「三万年もあれば色々進歩するんですよ」
レクスは答えない。
だが内心では認めていた。
見事だ、と。
三万年前。
人類は弱かった。
群れなければ生きられなかった。
恐竜に怯えながら暮らしていた。
それが今では。
巨大都市を築いている。
「大したものだ」
ガイアも感心していた。
「この規模の集落は見たことがない」
「集落じゃなくて都市です」
「そうか」
素直だった。
すると。
ガタンゴトン。
遠くから轟音が聞こえる。
「何だ?」
ヴェルドが振り返った。
線路の上を巨大な車両が走っている。
鉄でできた長い箱。
信じられない速度だった。
「魔導列車です」
リリアが説明する。
「人や荷物を運ぶ乗り物ですね」
「乗り物?」
「魔獣ではなく?」
「違います」
ヴェルドは目を細めた。
「面白いな」
三万年前には存在しなかった技術。
恐竜たちにとっては見るもの全てが未知だった。
そして。
しばらく歩いた時だった。
ガイアが足を止める。
「……何だあれは」
低い声。
視線の先。
空の遥か上。
巨大な影が浮かんでいた。
島のような大地。
その上に築かれた街。
「空中都市セレスです」
リリアが答える。
レクスも見上げる。
ヴェルドも。
ガイアも。
三人とも言葉を失った。
「浮いているな」
ガイアが言う。
「浮いてます」
「何故だ」
「魔力です」
「便利だな」
リリアは思わず笑った。
ガイアの反応は妙に淡々としている。
しかし。
その横で。
レクスは空中都市を見つめたままだった。
「……」
何かを考えている。
そんな顔だった。
「レクスさん?」
リリアが声を掛ける。
レクスは小さく首を振った。
「いや」
ただ。
認めるしかなかった。
人類は弱者ではない。
少なくとも今の世界では。
恐竜と肩を並べる力を持っている。
その時だった。
ゴゴゴゴゴ……
大地が揺れた。
周囲の人々が悲鳴を上げる。
「地震!?」
「何だ!?」
街が騒然となる。
だが。
レクス達の反応は違った。
三人とも同時に顔を上げる。
「この気配……」
レクスが呟く。
ヴェルドが顔をしかめた。
「おいおい」
ガイアも眉をひそめる。
「早すぎるな」
リリアだけが状況を理解できない。
「何なんですか!?」
レクスは地下の方向を見る。
結界都市アルマのさらに深部。
封印区画の方角だ。
「まただ」
短い言葉。
しかし表情は険しい。
「新たな封印が崩れ始めている」
リリアの顔から血の気が引いた。
「え……」
まだガイアが目覚めたばかりだ。
なのに。
もう次が来る。
その時。
ヴェルドが珍しく嫌そうな顔をした。
「嫌な予感しかしない」
「同感だ」
ガイアも即答する。
レクスは小さくため息を吐いた。
そして。
地下から微かに響く魔力を感じ取る。
懐かしい。
そして面倒な気配。
「……まさか」
思わず呟く。
その名前が脳裏を過った。
もし予想が当たっているなら。
面倒どころの話ではない。
アルマの地下で。
新たな封印が軋み始めていた。




