第六話 最速の狩人
「次こそ殺してやる」
ヴェルドの言葉と同時に、地下空間の空気が張り詰めた。
兵士たちは武器を構えたまま動けない。
魔導士たちも魔法陣を維持したまま固まっている。
誰もが理解していた。
目の前の二人は危険だ。
災害そのものだと。
だが。
最初に動いたのはヴェルドだった。
「まずは確かめる」
銀髪の男が笑う。
「この身体がどれほど動くのかをな」
次の瞬間。
姿が消えた。
「なっ!?」
兵士たちが驚愕する。
違う。
消えたのではない。
速すぎて見えなかったのだ。
ドンッ!
衝撃音。
気付けばヴェルドは数十メートル先の壁際に立っていた。
そして。
再び消える。
ドン!
ドン!
ドン!
爆発音のような足音が地下空間に響く。
「速い……」
リリアが呆然と呟く。
人間ではあり得ない。
上級冒険者でも見失う速度だった。
ヴェルドは壁を蹴り、柱を蹴り、天井近くまで飛び上がる。
まるで檻から解き放たれた獣だった。
「ははっ!」
笑い声が響く。
「悪くない!」
そして着地。
轟音。
石床に蜘蛛の巣状の亀裂が走った。
「身体能力は大幅に向上しているな」
レクスが冷静に分析する。
「魔力もだ」
ヴェルドは拳を握る。
その瞬間。
金色の魔力が腕に集まった。
バチバチと雷のような音が鳴る。
「これは……」
ヴェルド自身も驚いていた。
知らない力。
覚えのない魔法。
だが使い方は分かる。
本能的に。
「なるほど」
ニヤリと笑う。
「これが新しい力か」
金色の魔力が爆発する。
ドォン!
衝撃波だけで周囲の兵士が吹き飛ばされた。
「きゃあっ!」
リリアも尻もちをつく。
「まずい!」
「全員退避!」
指揮官が叫ぶ。
現場は大混乱だった。
だがヴェルドは人間たちなど見ていない。
視線の先にはレクスだけ。
「なあ王族」
「何だ」
「貴様も使えるんだろう?」
レクスは答えない。
だが。
次の瞬間。
ドォッ!!
黒い魔力が噴き上がった。
空気が震える。
床が軋む。
圧倒的な威圧感。
兵士たちが思わず膝をつく。
「……っ!」
リリアの呼吸が止まりそうになる。
ヴェルドが笑った。
「やはりな」
封印前より強い。
それは間違いない。
そして。
レクスもまた、自分と同じ変化を受けている。
「面白い」
ヴェルドが一歩踏み出す。
「ここで続きを――」
「やめろ」
レクスが遮った。
「何?」
「ここで暴れれば街が消える」
ヴェルドは周囲を見る。
青ざめた兵士。
逃げ惑う魔導士。
震えるリリア。
そして頭上には三十万人が暮らす都市。
「……なるほど」
少しだけ納得した。
確かに試すには場所が悪い。
「なら後でやるか」
「勝手に決めるな」
「逃げるのか?」
「阿呆か」
二人の会話に、人間たちは全くついていけない。
ただ一つだけ分かった。
もし今ここで戦えば。
結界都市アルマは消し飛ぶ。
その時だった。
地下空間に警報が鳴り響く。
赤い光が点滅する。
「な、何です!?」
リリアが叫ぶ。
魔導士の一人が顔面蒼白で叫んだ。
「第二封印区画です!」
「こちらも反応を確認!」
空気が変わった。
レクスの表情が消える。
ヴェルドの笑みも消える。
「……ほう」
ヴェルドが呟く。
感じる。
新たな気配。
封印の中で眠る存在。
それも一体ではない。
「おい王族」
「分かっている」
レクスが答える。
嫌な予感がした。
非常に。
そしてその予感は、おそらく正しい。
「どうやら」
ヴェルドが口元を吊り上げる。
「俺たちだけじゃないらしいぞ」
地下深く。
さらに別の封印が軋み始めていた。




