第四話 封印の兆し
レクスたちは大通りを歩いていた。
人々の視線を集めながら。
正確には、視線を集めているのはレクスの方だ。
黒髪。
長身。
整った顔立ち。
そして人間離れした威圧感。
街中でも目立たないはずがなかった。
「見られてますね」
リリアが小声で言った。
「そうか?」
「そうですよ」
むしろ気付いていなかったのか。
レクスは周囲を見渡した。
確かに何人かがこちらを見ている。
だが敵意は感じない。
好奇心。
警戒。
その程度だった。
「平和だな」
ぽつりと呟く。
「え?」
「我の時代ならあり得ん」
リリアは首を傾げた。
「恐竜の時代ってそんなに危険だったんですか?」
「常に死と隣り合わせだった」
レクスは即答した。
「弱ければ死ぬ」
「強くても死ぬ」
「食われるか、食うかだ」
リリアの顔が引きつる。
神話で聞くより物騒だった。
「今の方が良い世界じゃないですか?」
「どうだろうな」
レクスは空を見上げる。
「少なくとも退屈そうだ」
「それは平和って言うんですよ」
リリアは呆れた。
その時だった。
通りの先から歓声が上がる。
何事かと視線を向けると、広場に人だかりができていた。
「何だ?」
「闘技大会ですね」
「闘技大会?」
「冒険者や騎士が戦うんです」
リリアは慣れた様子で答える。
興味を持ったレクスは人混みの中を覗き込んだ。
広場の中央。
二人の男が剣を交えている。
周囲から歓声が飛ぶ。
「ほう」
レクスは少しだけ感心した。
速い。
少なくとも人類としては。
だが。
「弱いな」
「基準がおかしいんですよ」
リリアが即座に突っ込む。
レクスは肩を竦めた。
その時。
違和感が走った。
「……?」
レクスの表情が変わる。
ほんの僅か。
誰にも分からないほど微かな変化。
だが確かに感じた。
魔力。
それも古い。
とても古い気配。
「レクスさん?」
「静かにしろ」
リリアが口を閉じる。
レクスは目を閉じた。
周囲の音が遠ざかる。
歓声。
喧騒。
足音。
その全ての奥。
地下深くから何かが響いていた。
鼓動のように。
ゆっくりと。
確実に。
「まさか……」
レクスの目が細められる。
あり得ない。
だが間違いない。
これは。
封印だ。
封印魔法の揺らぎ。
自分が目覚めた時と同じ気配。
「どうしたんですか?」
「この街の地下に何がある」
「地下?」
リリアは考える。
「古代遺跡がありますけど……」
「やはりか」
レクスは呟いた。
予感が確信へ変わる。
何かがいる。
眠っている。
そして目覚めようとしている。
その時だった。
ゴォォォォォン!!
鐘の音が鳴り響いた。
街中が静まり返る。
続いて二度。
三度。
警報だった。
人々の顔色が変わる。
「封印観測塔からの警報だ!」
「地下区画だぞ!」
「避難しろ!」
広場が一気に騒然となる。
リリアの顔から血の気が引いた。
「そんな……」
「どういう意味だ」
「封印反応です」
震える声で答える。
「古代遺跡で異常が起きた時に鳴る警報です」
レクスは笑った。
久しぶりに。
本当に久しぶりに。
「なるほど」
口元が吊り上がる。
獰猛な笑みだった。
「どうやら退屈はしなくて済みそうだ」
その瞬間。
再び大地が揺れた。
ドォォォォン!!
悲鳴が上がる。
建物が軋む。
空気が震える。
そしてレクスは確信した。
目覚める。
同胞が。
数万年の眠りから。
かつて同じ時代を生きた恐竜が。
ゆっくりと。
確実に。
目を覚まそうとしていた。




