第三十九話 不動の盾
黒い瘴気が迫る。
「まずい!」
バルドが叫ぶ。
前衛の冒険者たちは体勢を崩していた。
避けられない。
そう誰もが思った、その時だった。
ドンッ。
一人の男が前へ出る。
ガイアだった。
「下がれ」
短い一言。
冒険者たちは反射的に後退する。
次の瞬間。
ガイアは両足を大地へ踏み込んだ。
ズンッ。
地面がわずかに沈む。
迫る黒い瘴気。
ガイアは逃げない。
避けない。
ただ、右腕を前へ突き出した。
「……っ!」
ドォォォォン!!
瘴気がガイアを飲み込む。
爆風が森を駆け抜けた。
木々が大きく揺れる。
土煙が舞い上がる。
「ガイアさん!」
リリアが叫ぶ。
やがて煙が晴れる。
そこには。
ガイアが立っていた。
一歩も動かずに。
腕を前へ突き出したまま。
「……効かんな」
服は少し汚れている。
それだけだった。
冒険者たちは言葉を失う。
「防いだ……?」
「真正面から……?」
「無傷……?」
ヴェルドが肩をすくめる。
「相変わらずだな」
「硬すぎる」
レヴィアも苦笑する。
ガイアは巨大な魔獣を見る。
「次は俺の番だ」
地面を蹴る。
ドォン!!
一瞬で間合いを詰める。
巨大な魔獣が爪を振り下ろした。
ガイアは避けない。
左腕で受け止める。
ガキィン!!
金属がぶつかるような音が響いた。
魔獣が驚いたように目を見開く。
その隙に。
ガイアの右拳が腹部へ突き刺さった。
ズガァァァン!!
巨体が吹き飛ぶ。
大木を何本もへし折りながら転がっていく。
森が静まり返った。
「す、すげぇ……」
若い冒険者が思わず呟く。
バルドも苦笑するしかない。
「化け物だな、本当に」
ガイアは首を横へ振った。
「まだ終わっていない」
その言葉通りだった。
倒れていた巨大な魔獣がゆっくりと立ち上がる。
砕けたはずの骨。
潰れた肉。
それらが黒い瘴気に包まれ、元通りになっていく。
「また再生した!」
リリアが息を呑む。
レクスは静かに魔獣を見つめていた。
「やはりな」
「何か分かったのか?」
バルドが尋ねる。
レクスは頷く。
「あれは瘴気が本体だ」
「本体?」
「肉体を壊しても意味はない」
巨大な魔獣が再び咆哮する。
黒い瘴気がさらに濃くなる。
その様子を見たレヴィアが、小さく笑った。
「なるほど」
「だったら」
指先に青い水球が生まれる。
「瘴気ごと洗い流せばいいのね」
ヴェルドが口元を吊り上げた。
「派手にやれ」
レヴィアは楽しそうに一歩前へ出た。




