第三十五話 冒険者の仕事
ティラはしばらく空を見上げていた。
風が銀色の髪を揺らす。
「……本当に終わったのね」
その声には、先ほどまでの軽さがなかった。
レクスは頷く。
「ああ」
「王家も?」
「ああ」
「都市も?」
「ああ」
「皆も?」
少しだけ。
レクスは目を伏せた。
「ああ」
ティラは何も言わなかった。
長い沈黙。
やがて。
彼女は小さく息を吐く。
「そう」
それだけだった。
だが。
リリアには分かった。
ティラは悲しんでいる。
三万年という時間の重さを。
今、ようやく実感したのだ。
しばらくして。
ティラはいつもの笑みを浮かべた。
「なら仕方ないわね」
そして。
リリアを見る。
「安心して」
「え?」
「この時代を壊したりしないわ」
リリアはほっと息を吐いた。
「よ、よかった……」
「レクスが嫌がることはしないもの」
レクスは眉をひそめた。
「俺は別に――」
「はいはい」
ティラは適当に流した。
ヴェルドが吹き出す。
「相変わらずだな」
「褒め言葉?」
「違う」
その時だった。
空からルナが降りてきた。
「見つけた!」
全員が振り返る。
「何をだ?」
ガイアが尋ねる。
「人間!」
ルナは元気よく答えた。
「山の麓で探してた!」
しばらくして。
現れたのはバルド率いる討伐隊だった。
「お前ら!」
バルドはレクスたちを見るなり怒鳴った。
「何日探したと思ってる!」
リリアが青ざめた。
「あ……」
そういえば。
山脈に入ってから三日が経っていた。
「依頼中に行方不明になる冒険者があるか!」
「すまない」
レクスが素直に謝った。
バルドは頭を抱えた。
「お前が謝ると逆に怖ぇんだよ……」
そして。
周囲を見渡す。
崩れた山。
巨大な足跡。
砕けた岩壁。
見なかったことにした。
「……まあいい」
バルドは諦めたように息を吐く。
「ちょうどいい」
「新しい依頼だ」
ヴェルドが笑った。
「ほう」
「依頼?」
レヴィアも興味深そうだ。
バルドは頷く。
「西部山脈の麓に魔獣の群れが出た」
「数は三十以上」
「Aランク級も混ざってる」
リリアが息を呑む。
「Aランク……!?」
それは普通の冒険者なら命懸けの依頼だ。
だが。
「面白そうだな」
ヴェルドが笑う。
「久々に暴れられるわね」
レヴィアも笑う。
「数が多いなら任せろ」
ガイアが腕を組む。
ディノも頷いた。
ティラは首を傾げる。
「これが冒険者のお仕事?」
「ああ」
バルドが答える。
「危険な仕事だ」
ティラは嬉しそうに笑った。
「いいわね」
リリアは嫌な予感しかしなかった。
だが。
レクスは小さく頷く。
「ああ」
「冒険者らしい仕事だ」
こうして。
レクスたちの次の目的は。
新たな同胞を探すことではなく。
冒険者として初めての本格的な討伐依頼となった。




