第三十三話 泣き虫最強戦士
山脈が静かになるまで、少し時間がかかった。
正確には。
静かに“なったことにした”と言った方が正しい。
「……でかいな」
ヴェルドがぽつりと呟く。
目の前では、巨大な恐竜――ドランが地面に額を擦り付けたまま動かない。
「王族ぅぅぅぅ!!」
まだ叫んでいる。
そして泣いている。
山肌が涙で濡れていくのを見て、リリアは完全に思考を放棄しかけていた。
「……あれ、敵じゃないんですか?」
「昔は敵だった」
ガイアが淡々と答える。
「今は“同じ側”だ」
「同じ側って何なんですかそれ……」
当然の疑問だった。
だが誰も明確には説明しない。
カルが一歩前に出る。
「ドラン様」
その声に。
「おおおおカルぅぅぅ!!」
ドランが泣きながら顔を上げる。
「生きていたのかぁぁ!!」
「生きてます!」
「よかったぁぁ!!」
再び地面に突っ伏した。
山が揺れる。
リリアは頭を抱える。
「情緒が全部地形に影響してるんですが……」
「昔からだ」
レヴィアが即答した。
レクスは静かにドランを見下ろしていた。
「ドラン」
「はい王族様!!」
即答だった。
リリアが反応する。
「王族……?」
その言葉に、レクスが軽く手を振る。
「俺は王じゃない」
淡々とした声。
「ただの王族だ」
ドランは顔を上げる。
「ですが我々にとっては象徴です!!」
「やめろ、重い」
ヴェルドが笑う。
「相変わらずだな、お前の周りだけ宗教みたいになるの」
「昔からだ」
ガイアも頷いた。
ドランは鼻をすすりながら立ち上がる。
「王族様がご無事で本当に……」
「落ち着け」
「無理です!!」
また泣いた。
ディノは呆れる。
「こいつ戦闘種族じゃないのか?」
「戦闘力は最上位だ」
ガイアが言う。
「情緒が壊滅しているだけだ」
それはそれで問題だった。
その時。
レクスが視線を上げる。
「ドラン」
空気が変わる。
「ここにいるのはお前だけか」
ドランは一瞬だけ真顔になる。
そして首を振った。
「いいえ」
全員が反応する。
「奥にもう一体います」
ヴェルドの笑みが消える。
「誰だ」
ドランは一拍置いて言った。
「ティラです」
その瞬間。
空気が凍った。
リリアには分からない。
だが他の全員の表情が変わる。
レヴィアが小さく呟く。
「最悪ね」
ガイアは山の奥を見たまま言う。
「よりによってそこか」
ヴェルドはため息を吐いた。
「一番ややこしいの来たな」
ルナは静かに目を細める。
ディノは緊張しているが、意味はまだ分からない。
レクスはゆっくりと目を閉じた。
「……そうか」
そして目を開く。
「行くぞ」
その声に、誰も逆らわなかった。
山脈の奥。
まだ目覚めたばかりの同胞がいる。
そしてそれは――
最も危険で、最も読めない存在だった。




