第三十話 人類の弱さ
山賊たちは震えていた。
目の前の男は何もしていない。
ただ一歩踏み出しただけだ。
それなのに。
地面が割れた。
「ひっ……!」
山賊の一人が尻もちをつく。
頭領も顔を引きつらせていた。
「ば、化け物……」
その言葉に。
レクスは少しだけ考えた。
「そうかもしれんな」
否定しなかった。
ヴェルドが吹き出す。
「認めるのかよ」
「事実だろう」
「まあそうだが」
レヴィアは楽しそうに笑っている。
ガイアは腕を組んだまま。
カルは真剣な顔でレクスの背後に立っていた。
ディノは山賊たちを見て首を傾げる。
「戦わないのか?」
「戦わないと思うぞ」
ヴェルドが答えた。
その通りだった。
山賊たちは武器を捨てた。
「す、すみませんでした!」
「命だけは!」
「見逃してください!」
一斉に土下座。
あまりに鮮やかな降伏だった。
リリアは複雑な気持ちになる。
確かに。
戦えば一瞬で終わる。
だが。
これほどまでに実力差を見せつける必要はあったのだろうか。
「どうする?」
ヴェルドが聞く。
レクスは山賊たちを見る。
怯えている。
戦意はない。
昔なら。
敵は殺した。
それが当たり前だった。
だが。
三万年後の世界は違う。
少なくとも。
リリアはそう考えるだろう。
レクスは小さく息を吐いた。
「行け」
山賊たちは顔を上げた。
「え?」
「二度と襲うな」
頭領は何度も頷く。
「は、はい!」
「ありがとうございます!」
そして。
山賊たちは逃げた。
人生で最も速く。
その姿が見えなくなるまで。
誰も口を開かなかった。
やがて。
ディノが呟く。
「逃がすのか」
「ああ」
「何故だ」
レクスは少し考えた。
「この時代の人類は」
遠くの山脈を見る。
「俺たちより弱い」
誰も否定しなかった。
「弱い者を無意味に殺す趣味はない」
その言葉に。
リリアは少しだけ驚いた。
恐ろしい存在だと思っていた。
だが。
少なくともレクスには。
彼なりの理屈があるらしい。
その時だった。
ルナが空を見上げた。
「あ」
全員の視線が集まる。
ルナの表情から笑みが消えている。
「どうした」
レクスが聞く。
ルナは西を指差した。
「強くなった」
「何がだ」
「封印の反応」
空気が変わった。
レクスも感じる。
確かに。
さっきまでより。
明らかに。
強い。
ガイアの表情が険しくなる。
「まずいな」
ディノも頷いた。
「間に合うか」
レヴィアは珍しく笑っていなかった。
カルは即座にレクスの前へ出る。
「レクス様」
「ああ」
レクスは山脈を見つめた。
遠い。
だが。
もう長くはない。
誰かが。
目覚めようとしている。
そして。
その瞬間。
西部山脈の遥か彼方。
巨大な咆哮が響いた。
人間には聞こえない。
だが。
ここにいる恐竜たち全員には。
はっきりと聞こえていた。
同胞が。
目覚めたのだと。




