第二十九話 山脈への道
翌朝。
商隊は再び西へ向かっていた。
昨日とは違う。
明らかに違う。
視線が増えていた。
「……」
商隊の人々が見ている。
カルを。
正確には。
レクスの隣を歩く黒髪の青年を。
「レクス様」
「何だ」
「足元に石があります」
「見えている」
「失礼しました」
三秒後。
「レクス様」
「何だ」
「日差しが強いですね」
「ああ」
「帽子をお持ちしますか」
「いらん」
「承知しました」
また三秒後。
「レクス様」
「何だ」
レクスはすでに諦めていた。
リリアは遠い目をしている。
「昨日の子ですよね……?」
「ああ」
ヴェルドが笑う。
「これでも大人だ」
「納得できません……」
カルは見た目こそ青年になった。
だが。
中身は昨日と何も変わっていない。
その時。
先頭を飛んでいたルナが降りてきた。
「見えてきたわ」
全員の表情が変わる。
視線の先。
地平線の向こう。
巨大な山脈がそびえていた。
雲を突き抜けるほど高い。
「西部山脈か」
ガイアが呟く。
レクスも頷いた。
感じる。
微かだが。
確かに。
「……いるな」
ディノも気付いた。
「同胞か」
「恐らく」
レヴィアは笑みを浮かべる。
「楽しみね」
リリアだけが楽しめなかった。
また増える。
確実に。
しかも。
誰が出てくるか分からない。
その時だった。
「止まれ!!」
前方から叫び声が聞こえた。
商隊が止まる。
街道の先。
十人ほどの武装集団が立っていた。
盗賊。
誰が見ても分かる。
隊長のカイルが顔を青くした。
「山賊か……!」
男たちが笑う。
「悪いな」
「ここから先は通行料をもらう」
武器を抜く。
商人たちが怯えた。
だが。
レクスたちは違った。
「山賊?」
ディノが首を傾げる。
「人類同士で略奪するのか」
「そういう仕事もある」
ヴェルドが答える。
「面白いわね」
レヴィアが笑う。
ルナは興味津々。
カルはレクスの一歩後ろに立った。
「レクス様」
「何だ」
「排除しますか」
物騒だった。
山賊たちはまだ気付いていない。
目の前にいるのが。
人類の常識が通じない存在だと。
「おい!」
山賊の頭が怒鳴った。
「聞いてんのか!」
レクスは少し考えた。
そして。
前に出る。
「通してくれ」
頭は笑った。
「嫌だと言ったら?」
レクスは真顔だった。
「困る」
「は?」
「急いでいる」
山賊たちは顔を見合わせた。
そして。
大笑いした。
「馬鹿かお前!」
「面白ぇ!」
「なら力づくで――」
言葉は最後まで続かなかった。
ドォン。
地面が揺れた。
誰も動いていない。
だが。
レクスの足元の大地が。
ひび割れていた。
山賊たちの笑顔が消える。
「……え?」
レクスは首を傾げた。
「通してくれるか?」
静かな声。
なのに。
誰一人として逆らえる気がしなかった。
そして。
山賊たちは。
人生で最も早い速度で道を開けた。




