第二十八話 親衛隊第三席
夕暮れ。
商隊は予定を変更し、その場で野営することになった。
理由は単純。
誰も今の状況を理解できていないからだ。
特に。
新たに増えた少年。
カルの存在を。
焚き火を囲みながら、リリアは目の前の光景を眺めていた。
「……」
カルがいる。
正座している。
しかも。
レクスの真正面で。
「レクス様」
「何だ」
「お腹は空いていませんか」
「空いていない」
「そうですか」
カルは頷く。
三秒後。
「レクス様」
「何だ」
「寒くありませんか」
「寒くない」
「そうですか」
また三秒後。
「レクス様」
「何だ」
「疲れていませんか」
レクスが黙った。
ヴェルドが吹き出す。
「始まったな」
「始まったわね」
レヴィアも笑う。
ディノだけが困惑していた。
「何なんだ」
「昔からこうだ」
ガイアが説明する。
「王族親衛隊は王族に忠誠を誓っている」
「それは分かる」
「カルはその中でも特別だ」
「どう特別なんだ」
ガイアは少し考えた。
「過保護だ」
分かりやすかった。
「レクス様」
まただった。
「……何だ」
「お水です」
どこから持ってきたのか。
木のコップが差し出される。
レクスは受け取った。
「ありがとう」
カルの顔が輝く。
「はい!」
リリアは目を丸くした。
レクスが礼を言った。
しかも自然に。
「慣れてるんですね……」
「ああ」
ヴェルドが頷く。
「昔からだ」
「俺たちが戦ってる時も」
レヴィアが続ける。
「カルだけはレクスの世話をしてたわ」
カルは胸を張った。
「親衛隊ですので!」
「戦わなかったのか?」
ディノが尋ねる。
カルは少しだけ不満そうな顔をした。
「戦いました」
「ただ」
その目がレクスを見る。
「レクス様の護衛が最優先でした」
嘘ではない。
その場にいる全員が知っていた。
カルは強い。
少なくとも。
見た目ほど弱くはない。
その時だった。
「ところで」
カルが首を傾げた。
「皆さん、どうして人型なんですか?」
沈黙。
今度は逆にカルが困惑する番だった。
「……え?」
ヴェルドが笑った。
「お前」
「まさか知らないのか?」
「何をです?」
レヴィアが説明する。
「今の私たちは人型で生活してるの」
カルは固まった。
「……何故ですか?」
「目立つからよ」
「目立つ?」
カルは真剣に考え込む。
そして。
「確かにティラノの姿で街を歩くのは目立ちますね」
「だろ?」
ヴェルドが笑う。
カルは何度か頷いた。
そして。
「なるほど」
立ち上がった。
「では私も」
嫌な予感がした。
レクスが口を開く。
「待て」
遅かった。
ドォン!!
魔力が溢れる。
風が吹き荒れる。
焚き火が揺れる。
リリアは思わず目を閉じた。
数秒後。
恐る恐る目を開く。
そこにいたのは。
「……え?」
黒髪の青年だった。
年齢は二十歳くらい。
整った顔立ち。
引き締まった体。
そして。
さっきまでの少年と同じ目。
カルだった。
「どうでしょう!」
満面の笑み。
リリアは固まる。
「え?」
「え?」
「えぇぇぇ!?」
カルは首を傾げた。
「何か変でしたか?」
ヴェルドが腹を抱えて笑っている。
レヴィアも涙を流していた。
ガイアは額を押さえている。
ディノは立ち上がった。
「子どもじゃなかったのか!?」
「違います!」
カルは真顔で答えた。
「私は成人しています!」
リリアは頭を抱えた。
まただ。
また常識が通じない。
そして。
レクスは静かにため息を吐いた。
旅は。
ますます賑やかになりそうだった。




