第二十六話 護衛任務
結界都市アルマを出発して半日。
商隊は西へ向かって進んでいた。
空は晴天。
街道の状態も悪くない。
本来なら退屈な護衛任務になるはずだった。
しかし。
「これは何だ」
ディノが荷馬車を見ている。
「荷馬車よ」
リリアが答えた。
「知っている」
ディノは真顔だった。
「なぜ魔獣ではなく馬が引いている」
リリアは少し考えた。
「……その方が安いから?」
「なるほど」
ディノは納得した。
三万年前の価値観では理解できないらしい。
その隣では。
「へぇ」
ルナが御者席に座っていた。
「人類ってこうやって移動するのね」
「飛べば早いだろ」
ヴェルドが呆れる。
「風情がないじゃない」
ルナは楽しそうだ。
レヴィアも窓から景色を眺めている。
「悪くないわね」
ガイアは黙々と歩いていた。
レクスも同様だ。
その時。
「皆さん!」
リリアが駆け寄ってきた。
「隊長さんが挨拶したいそうです」
商隊の隊長。
名をカイルという。
四十代くらいの男性だった。
「改めてよろしく頼む」
カイルは頭を下げた。
「こちらこそ」
レクスが答える。
カイルはレクスたちを見回した。
昨日から思っていた。
この集団は妙だ。
強い。
それは分かる。
だが。
どこか常識が欠けている。
「聞いていいか?」
「何だ」
「皆、兄弟なのか?」
沈黙。
ヴェルドが吹き出した。
レヴィアが笑い出す。
ルナは腹を抱えている。
ガイアは目を閉じた。
ディノは困惑していた。
「違う」
レクスが答える。
「そうか」
カイルも少し安心した。
「確かに似てないな」
「似てたら嫌だわ」
レヴィアが即答する。
「誰がだ」
「全員よ」
また笑いが起きた。
和やかな空気。
だが。
レクスだけは違った。
「……」
立ち止まる。
「どうしました?」
リリアが尋ねる。
レクスは答えない。
視線は荷馬車へ向いていた。
正確には。
一番後ろの荷車。
「レクス?」
ヴェルドも気付いた。
ガイアも。
レヴィアも。
ルナも。
ディノも。
全員の表情が変わる。
カイルだけが分からない。
「何かあるのか?」
レクスはゆっくりと荷車へ近付く。
積まれているのは木箱。
ただの荷物。
そのはずだった。
しかし。
「開けろ」
低い声。
カイルは驚いた。
「いや、これは依頼主の――」
「開けろ」
二度目。
有無を言わせない声だった。
カイルは息を呑む。
そして。
震える手で木箱を開いた。
中に入っていたのは。
石だった。
黒い。
不気味な。
脈動する石。
「これは……」
リリアが顔をしかめる。
嫌な感じがした。
だが。
レクスたちは違った。
全員が知っている。
この気配を。
「封印石か」
ガイアが呟く。
ヴェルドの笑みが消えた。
レヴィアも真顔になる。
ディノは目を見開いた。
ルナだけがぽつりと言った。
「あれ?」
全員が見る。
ルナは石を指差した。
「これ」
嫌な予感がした。
「さっきから光ってる」
その瞬間。
ピシッ。
石に亀裂が入った。
全員が固まる。
そして。
レクスだけが静かに呟いた。
「……最悪だな」
次の瞬間。
黒い封印石が砕け散った。




