第二十四話 銀月の少女
月明かりが時計塔を照らしていた。
銀髪の少女は塔の縁に立ったまま笑っている。
落ちれば無事では済まない高さだ。
だが本人は気にした様子もない。
「久しぶり、レクス」
懐かしむような声。
レクスは小さく息を吐いた。
「本当にお前だったか」
「そんなに驚くこと?」
「少しな」
少女は楽しそうに笑った。
そして塔の縁から軽やかに飛び降りる。
普通の人間なら死ぬ高さ。
だが。
ふわり。
羽のように着地した。
「相変わらずね」
「お前もな」
レクスは肩を竦める。
少女はレクスの周りをぐるりと歩いた。
観察するように。
確かめるように。
「本物だ」
「何だその確認は」
「だって三万年よ?」
少女は笑う。
「偽物かもしれないじゃない」
「偽物ならもっと上手くやる」
「それもそうね」
妙に納得していた。
その時。
塔の階段から足音が聞こえる。
「やっぱりここだったか」
ヴェルドだった。
後ろにはガイア。
レヴィア。
ディノまでいる。
どうやらレクスの後を追ってきたらしい。
少女は彼らを見る。
そして。
「わぁ」
嬉しそうな声を上げた。
「みんないる」
ヴェルドが顔をしかめる。
「その反応が嫌なんだよ」
「失礼ね」
「お前にだけは言われたくない」
即答だった。
ディノが小声で尋ねる。
「知り合いか?」
「知り合いだ」
ガイアが答える。
「かなり昔からな」
「面倒な奴?」
「かなり」
全員が頷いた。
少女は不満そうに頬を膨らませた。
「酷くない?」
「事実だ」
レクスが言う。
少女は笑った。
否定はしないらしい。
そして。
ディノの前まで歩いてくる。
「初めまして」
にこりと微笑む。
「私はルナ」
銀髪が月光を反射する。
「プテラ族よ」
ディノが目を見開いた。
空を支配していた種族。
戦闘力そのものは高くない。
だが。
情報収集能力は群を抜いていた。
「生きていたのか」
「そっちこそ」
ルナは笑う。
「暴れてたって聞いたわ」
ディノが気まずそうに目を逸らした。
ヴェルドが吹き出す。
「街中でその話はやめろ」
「面白いじゃない」
「本人は面白くない」
久しぶりに笑いが起きる。
だが。
レクスは気になっていた。
「いつ目覚めた」
ルナは答える。
「五日前」
予想より早かった。
「誰とも接触していないのか?」
「してないわ」
「何故だ」
ルナは不思議そうな顔をした。
「だって面白かったんだもの」
「何がだ」
「人類」
即答だった。
ルナは街を見下ろす。
灯りの海。
人々の暮らし。
行き交う魔導車。
全てが珍しかったのだろう。
「三万年でここまで変わるなんて」
少しだけ感心したように言う。
「見ていて飽きなかったわ」
その言葉に。
レクスは少し考える。
ヴェルド。
ガイア。
レヴィア。
ディノ。
そしてルナ。
仲間は増えている。
だが。
封印されていた同胞はまだ大勢いるはずだ。
「ルナ」
「なに?」
「何か見なかったか」
ルナは首を傾げる。
「見たわよ」
全員の視線が集まる。
ルナはあっさりと言った。
「西の方」
「大きな封印反応」
空気が変わる。
レクスの表情が険しくなる。
「確かなのか」
「ええ」
ルナは頷く。
「私、空から見てたもの」
静寂が落ちた。
また誰かが目覚めようとしている。
しかも。
かなり大きな反応だ。
ルナは楽しそうに笑った。
「次は誰かしらね」
その言葉と共に。
新たな同胞の目覚めが近付いていた。




