第二十三話 時計塔の影
夕暮れ。
一行は宿へ戻っていた。
ディノは相変わらず落ち着かない。
窓の外を見ては驚き。
魔導具を見ては驚き。
人類の文明を見るたびに驚いている。
「忙しい奴だな」
ヴェルドが笑う。
「お前だって最初は同じだっただろう」
ガイアが言う。
「俺はもう少し落ち着いてた」
「嘘ね」
レヴィアが即答した。
ヴェルドが顔をしかめる。
そんなやり取りを聞きながら。
レクスは窓の外を見ていた。
昼間のことが気になっている。
時計塔。
あの銀髪。
見間違いとは思えなかった。
「気になるの?」
レヴィアが隣へ来る。
「ああ」
レクスは頷く。
「お前も見ただろう」
「ええ」
レヴィアも珍しく真面目な顔だった。
「でも確信はないわ」
ガイアも腕を組む。
「可能性は低い」
「だがゼロではない」
ヴェルドも同意した。
ディノだけが話についていけない。
「誰の話だ?」
レクスは少し考えた。
そして答える。
「面倒な奴だ」
「それは分かった」
ディノが即答する。
「お前たちの反応で」
レヴィアが吹き出した。
確かにその通りだった。
その時。
コンコン。
部屋の扉が叩かれる。
「失礼します」
リリアだった。
手には紙を持っている。
「ギルドからです」
「何だ?」
「緊急ではないんですが……」
リリアは紙を広げた。
「ここ数日、街で妙な噂があるそうです」
レクスが受け取る。
そこには簡単な報告が書かれていた。
夜になると現れる銀髪の少女。
時計塔の上。
屋根の上。
誰もいないはずの場所に現れる。
だが近付くと消える。
「銀髪……」
ディノが呟く。
レクスたちは顔を見合わせた。
偶然ではない。
おそらく同じ人物だ。
「被害は?」
ガイアが尋ねる。
「ありません」
リリアは首を振る。
「ただ目撃情報だけです」
「なら放っておけばいいだろ」
ヴェルドが言う。
しかし。
レクスは首を振った。
「そうもいかん」
「何故?」
ディノが聞く。
レクスは少しだけ苦笑した。
「もし俺の予想が当たっているなら」
「被害が出てからでは遅い」
その言葉に。
ヴェルドとレヴィアも頷いた。
ディノはますます不安になる。
「そんなに危険なのか?」
「危険というか……」
レヴィアが考える。
「自由過ぎるのよ」
「それだな」
ヴェルドも同意した。
ガイアは深いため息を吐いた。
「昔からな」
ディノは理解した。
つまり。
強い。
そして面倒。
それだけは分かった。
その夜。
レクスは一人で宿を出た。
向かう先は時計塔。
昼間に見た場所だった。
夜風が吹く。
街は静かだ。
やがて塔の頂上へ辿り着く。
誰もいない。
「気のせいか」
そう思った。
その時だった。
「ひどいなぁ」
少女の声。
レクスが振り返る。
そこには。
銀髪の少女が座っていた。
塔の縁に。
落ちれば即死する高さだというのに。
まるで気にしていない。
少女は楽しそうに笑った。
「久しぶりなのに」
レクスは目を細める。
「やはりお前か」
少女は立ち上がる。
月明かりに銀髪が輝いた。
そして。
いたずらを思いついた子供のように笑う。
「久しぶり、レクス」
その笑顔を見た瞬間。
レクスは確信した。
見間違いではなかった。
また一人。
封印から目覚めた同胞が。
既に人類の街で自由に遊び回っていたのだった。




