第二十二話 人類の街
東の森から戻る道中。
ディノは終始無言だった。
視線だけが忙しく動いている。
空。
森。
道。
全てが見慣れないものなのだろう。
「本当に三万年後なのか」
ぽつりと呟く。
「ああ」
レクスが答える。
「信じられんな」
「俺も最初はそうだった」
ヴェルドが笑った。
「だが現実だ」
ディノは黙る。
やがて一行は結界都市アルマへ到着した。
巨大な城壁が見える。
ディノが足を止めた。
「何だあれは」
「都市よ」
リリアが答える。
「人類の」
ディノは城壁を見上げる。
しばらく無言だった。
「人類が?」
「ああ」
「作った?」
「ああ」
ディノはもう一度見上げた。
そして。
「嘘だろ」
今までで一番驚いていた。
レクスたちは少しだけ笑う。
全員が同じ反応をしたからだ。
門を通る。
街へ入る。
そして。
ディノは完全に固まった。
「……」
言葉が出ない。
人。
人。
人。
大勢の人類が行き交っている。
店が並んでいる。
魔導具が動いている。
空には飛行船まで浮かんでいた。
「何だこれは」
「人類の街だ」
「違う」
ディノは首を振った。
「俺の知っている人類じゃない」
それはそうだろう。
三万年前の人類とは別物なのだから。
その時。
露店から香ばしい匂いが漂ってきた。
ディノの腹が鳴る。
ぐぅぅぅ。
沈黙。
ヴェルドが吹き出した。
「腹は減るらしいな」
「……うるさい」
ディノが初めて少しだけ恥ずかしそうな顔をした。
リリアが笑う。
「まずはご飯ですね」
そして。
一行は屋台街へ向かった。
肉串。
焼き菓子。
果実水。
様々な食べ物が並んでいる。
ディノは興味深そうに見回した。
「これは何だ」
「焼き鳥よ」
「これは?」
「果実酒」
「これは?」
「それは靴」
質問が止まらない。
完全に観光客だった。
レクスたちは少しだけ安心していた。
少なくとも。
暴走していた時より遥かにまともだ。
だが。
その時だった。
人混みの向こう。
レクスの視線が止まる。
「……」
ヴェルドも気付く。
ガイアも。
レヴィアも。
四人の表情が同時に変わった。
「どうしたんです?」
リリアが尋ねる。
レクスは答えない。
ただ一点を見つめていた。
遠く。
街の中心にある巨大な時計塔。
その頂上。
一瞬だけ。
誰かが立っていた。
長い銀髪。
細い影。
しかし次の瞬間には消えている。
「見間違いか?」
ヴェルドが呟く。
レヴィアは珍しく笑っていなかった。
「いいえ」
ガイアも静かに言う。
「俺も見た」
レクスは目を細める。
そして。
小さく呟いた。
「まさか……」
その名前を。
彼だけは知っていた。
もし本当にあの人物なら。
同胞の中でも最も厄介な存在かもしれない。
そして時計塔の上では。
銀髪の少女が街を見下ろしていた。
「へぇ」
楽しそうな笑み。
「レクスも起きてたんだ」
少女はくすりと笑う。
そして姿を消した。
まるで最初から存在しなかったかのように。




