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恐竜王レクス 〜三万年後に目覚めた最強王族、人類の世界で冒険者になる〜  作者: Saaaya


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第二話 三万年後の世界


「し、神暦三七二四年です」


 少女の声は震えていた。


 だがその言葉は確かに届いた。


「神暦?」


 聞き慣れない単語だった。


「はい……現在使われている暦です」


 彼は眉をひそめる。


 神暦など知らない。


 自分が生きていた時代には存在しなかった。


「封印から……どれほど経った」


 少女はごくりと唾を飲み込んだ。


「記録によると、およそ三万二千年です」


 沈黙。


 風が吹く。


 木々が揺れる。


 誰も声を出さない。


 そして。


「三万年……?」


 低い声が漏れた。


 地面に亀裂が走る。


 彼自身も気付いていなかった。


 漏れ出た魔力が周囲へ圧力を放っていたのだ。


「ひっ……!」


 研究員たちが後ずさる。


 三万年。


 あまりにも長すぎる時間だった。


 自分が知る者たちは既に存在しない。


 王も。


 兄弟たちも。


 臣下たちも。


 すべてが消え去った年月だ。


「……そうか」


 静かな声だった。


 だがその静けさが逆に恐ろしかった。


 少女は慎重に言葉を選ぶ。


「あなたは……本当に恐竜なんですか?」


 彼は視線を向けた。


「そう呼ばれていたな」


「伝説じゃなかった……」


 少女は思わず呟いた。


 神話。


 昔話。


 子供向けの英雄譚。


 そう思われていた存在が今、目の前にいる。


「名前は?」


 思わず尋ねていた。


 すると彼は少しだけ考えた後、口を開く。


「レクス」


 短い名だった。


「レクス……」


 少女はその名を繰り返す。


 不思議と似合っている気がした。


「私はリリアです」


「……」


「封印遺跡を研究しています」


 レクスは黙って聞いていた。


「あなた達が封印された理由とか、当時の記録とかを調べているんです」


 その瞬間。


 レクスの目が細められた。


「知っているのか」


「全部じゃありません」


「どこまでだ」


「神々と人類が協力して恐竜を封印したこと」


 レクスの表情は変わらない。


「封印には莫大な魔力が使われたこと」


 変わらない。


「そして最近になって各地の封印が弱まり始めていることです」


 そこで初めて反応があった。


 わずかに眉が動く。


 やはり。


 この目覚めには理由がある。


「なぜ弱まった」


「それは分かりません」


 リリアは首を振る。


「でも世界中で同じ現象が起きています」


「世界中……」


 レクスは空を見上げた。


 嫌な予感がした。


 もし本当に封印が崩れているなら。


 目覚めるのは自分だけではない。


「他にもいる」


 ぽつりと呟く。


「え?」


「我だけではない」


 レクスは断言した。


「必ず目覚める」


 リリアの顔色が変わった。


「そ、それって……」


「お前たちの言う恐竜だ」


 研究員たちが青ざめる。


 一体だけでも災害級だ。


 それが何体も。


 いや、何百も。


 考えたくもない。


「安心しろ」


 レクスが言った。


「我は無意味な殺しは好まん」


 その言葉に誰も安心できなかった。


 好まないだけで、やらないとは言っていない。


 するとリリアが恐る恐る尋ねた。


「レクスさん」


「何だ」


「これからどうするんですか?」


 当然の疑問だった。


 三万年ぶりに目覚めた存在。


 行く当てなどないはずだ。


 レクスは少しだけ考える。


 そして。


「知る」


「え?」


「この世界を」


 空に浮かぶ都市を見る。


 遠くの城壁を見る。


 自分の身体を見る。


 そして拳を握る。


「なぜ我はこの姿になった」


「なぜ人語を話せる」


「なぜ封印が崩れている」


 疑問は山ほどある。


「真実を知るまで終われん」


 リリアはその横顔を見つめた。


 怒っている。


 困惑している。


 警戒している。


 だが同時に。


 どこか迷っているようにも見えた。


 三万年後の世界。


 変わり果てた世界。


 レクス自身もまた、その変化に戸惑っているのだ。


「だったら」


 リリアは決意する。


「私が案内します」


 レクスが振り返る。


「案内?」


「はい」


 研究員たちが驚く。


「お、おいリリア!」


「何考えてるんだ!」


 当然だった。


 目の前にいるのは伝説の怪物だ。


 危険すぎる。


 だがリリアは首を横に振った。


「この人は重要な証言者です」


「証言者?」


「三万年前を知る生き証人ですよ!」


 研究者としての目が輝いていた。


 恐怖より好奇心が勝っている。


 レクスはしばらく黙っていた。


 やがて。


「面白い人間だな」


 そう言った。


 そして背を向ける。


「ならば来い」


「え?」


「案内するのだろう」


 リリアは目を瞬かせた。


 数秒後。


 慌てて後を追う。


 こうして。


 三万年の眠りから目覚めた恐竜王族と、一人の研究者の旅が始まった。


 その時はまだ誰も知らない。


 世界の地下深くで、別の封印もまた静かに軋み始めていることを。

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