第十八話 森の異変
翌朝。
レクスたちは東の森へ向かっていた。
依頼内容は調査。
そして可能であれば行方不明者の救出。
討伐は最後の手段だ。
森へ入ると空気が変わった。
鳥の鳴き声が少ない。
獣の気配も薄い。
「静かですね……」
リリアが周囲を見回す。
「逃げているんだろうな」
ヴェルドが答えた。
「何からですか?」
「決まってる」
ヴェルドは前を見る。
「強い奴からだ」
その言葉にリリアは黙った。
確かに。
森全体が何かを恐れているようだった。
先頭を歩くレクスが足を止める。
地面に視線を落とした。
「見ろ」
そこには大きな窪みがあった。
まるで何か巨大なものが踏み込んだ跡。
しかし。
足跡としては妙だった。
「これ……」
リリアがしゃがみ込む。
「途中で消えてる?」
「ああ」
ガイアが頷く。
「歩いた痕跡じゃない」
レヴィアも観察する。
「着地した跡ね」
「飛んだんですか?」
リリアが驚く。
「違う」
レクスが首を振った。
「跳んだんだ」
その言葉にリリアはさらに混乱する。
何十メートルも先まで続く着地点。
普通の生き物ではあり得ない。
「人類の基準で考えるな」
レクスはそう言った。
しばらく進む。
すると。
今度は倒木が現れた。
何本も。
何十本も。
まるで嵐でも通ったかのように。
「魔法?」
リリアが尋ねる。
ガイアが首を振る。
「違う」
一本の木に触れる。
「力任せだ」
リリアは絶句した。
大人が数人で囲むほどの大木だ。
それを素手で?
「やっぱり暴れてるわね」
レヴィアが呟く。
レクスの表情も険しい。
「理性があるならこうはならん」
さらに進む。
すると。
風に乗って臭いが届いた。
血の臭いだ。
リリアの顔色が変わる。
「まさか……」
全員が速度を上げた。
やがて。
小さな広場へ出る。
そこには壊れた荷車。
散乱した荷物。
折れた武器。
そして。
「人がいる!」
リリアが駆け寄った。
倒れていたのは冒険者だった。
まだ生きている。
しかし重傷だ。
「大丈夫ですか!?」
男はゆっくり目を開く。
震えていた。
恐怖で。
「来るな……」
かすれた声だった。
「逃げろ……」
「何がいたんです?」
男は焦点の合わない目で森を見る。
そして。
「化け物だ……」
唇を震わせた。
「人じゃない……」
「魔獣でもない……」
レクスたちは黙って聞いている。
「黒かった……」
男の声が震える。
「巨大な影だった……」
その瞬間。
レクスの目が細くなった。
ヴェルドも反応する。
ガイアも。
レヴィアも。
四人だけが気付いた。
その特徴に心当たりがある。
「黒い?」
リリアが首を傾げる。
だが。
その時だった。
ズズン。
大地が揺れた。
全員が動きを止める。
もう一度。
ズズン。
森の奥。
何か巨大なものが動いている。
男の顔が青ざめた。
「あいつだ……」
震える指が森を指す。
「あいつが来る……」
周囲の鳥が一斉に飛び立った。
木々が揺れる。
そして。
森の奥から。
低い咆哮が響いた。
それは獣の声ではなかった。
リリアの背筋に寒気が走る。
レクスは静かに前へ出た。
「ようやく見つけたか」
そして。
巨大な影が木々の向こうに現れる。
その姿を見た瞬間。
リリアは息を呑んだ。
それは。
今まで見たどんな魔獣よりも巨大だった。




