大好きなあなた 5
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シャルルとあの人が同じ人物だった。
それはわたしを大混乱に陥らせた。
シャルルのことが大好きで、でも、わたしを攫ったあの人のことも気になってしまって、どうしたらいいのかしらってずっと悩み続けていた感情が爆発して、ぶわっと目に涙が溢れて来る。
マノンがわたしの腕から、とん、と床に降りて、「おい陰険魔法使い、貸し一つな」ってまた変な鳴き方をして、優雅に窓から出て行った。
泣きじゃくるわたしに、シャルルが焦ったように腰を浮かせて、わたしの隣に移動してくる。
「おい、あれは悪かったとは思っている。だけど、そんなに泣かなくたっていいだろう?」
違うのよ。別に、シャルルに攫われたことが怖くて、それを思い出して泣いているんじゃないわ。
だけど、説明がとっても難しいの。
あと、止めようと思っても涙が止まらないのよ。
顔を覆って泣いていると、いつかみたいに、シャルルがわたしを膝の上に横抱きに抱き上げる。
髪を梳くように優しく頭を撫でられて、わたしの涙は余計に止まらなくなってしまった。
……いっぱいいっぱい、言いたいことがあるのよ?
どうしてわたしを攫って閉じ込めたの、とか。
どうして名乗ってくれなかったの、とか。
浮気相手はどうしたの、とか。
――わたしのことを、どう思っているの、とか。
だけど今は何も言えない。
もう、頭の中も心の中もぐちゃぐちゃよ。
そんな状態で優しく頭を撫でられるから、もっともっといっぱいいっぱいになっちゃうの。
シャルルはわたしを何とか泣き止ませようと、頭を撫でながらもう片方の手でトントンとわたしの背中を叩く。
ものすごく甘やかされているわ。
それがわかるから――だから、シャルルはわたしのことを、嫌いになんてなっていないのかしらって少し期待してしまう。
でも、顔が見えないのは落ち着かないから、わたしはぐすぐすと鼻を鳴らしながら、手を伸ばして、シャルルのフードをえいって後ろに払ってやったの。
紫色の髪に、漆黒の瞳。
陶器みたいに滑らかな白い肌。
ちょっぴり釣り目だけど、端正で綺麗な顔。
わたしの記憶の中の、九歳の男の子の面影はちょっとしかない。
せいぜい髪の色と瞳の色が同じくらいよ。
「む、昔は、とっても小さかったわ」
「悪かったな。急に伸びたんだよ」
「別に、悪いなんて言ってないわ」
小さくても大きくても、シャルルはシャルルだもの。
わたしの大切なマノンを助けてくれた、優しい優しい男の子よ。いえ、もう男の人、だけど。
「なんで、教えてくれなかったの?」
攫われた時、シャルルがシャルルだって名乗ってくれたら、わたしはこんなに悩まなかったし、苦しくなかったわ。
「自分から名乗るなんて、癪だったからだ」
「意味がわからないわ」
「エドウィージュこそ意味がわからない。なんでここから出て行った。そして、どうしてここで俺を待っていた。……俺から逃げたかったんじゃないのか?」
「逃げたいなんて、思ってないわ! シャルルが悪いんじゃない!」
「なんでだよ」
心底わからないという顔をするシャルルに、わたしはムッとなった。
こんなにわたしを悩ませて、何も知らないって顔をするのはずるいわ!
「全部全部、シャルルのせいだわ! シャルルが浮気なんてするから、だからわたしは――」
「ちょっと待て」
「むぅっ」
全部言う前に、シャルルの大きな手で口をふさがれた。
文句を封じられて、わたしはもっとムッとなる。文句も言わせてもらえないなんて、もっとずるいわ!
だけどシャルルがとっても戸惑った顔で瞳を揺らすから、言いわけくらい聞いてあげようかしらって気になる。
口をふさがれたままじっと見上げると、シャルルがおろおろしながら――
「俺は、浮気なんてしていないぞ。いったい何の話だ」
まあ! 誤魔化そうって言うのかしら?
わたしだって、ちょっと魔が差したくらいなら、ちゃんと教えてくれたら許せるわ。
本気だったら嫌だけど、本気じゃなかったらよかったって思うもの。
……本音を言ったら嫌なのは嫌だけど、それでもお別れできないくらいシャルルが好きなんだから仕方がないでしょ?
だから正直に話してほしいの。
「エドウィージュ、俺は無実だ。浮気なんてしていない」
「むぅ」
「ああ悪い」
わたしの口を塞いだままだったのを思い出したらしく、シャルルが手を離してくれる。
なので、すかさず言ってやったわ。
「北からシャルルの浮気報告が届いたってティファニーが言っていたわ! 嘘はよくないと思うの。ちゃんと教えてくれたらきっと……たぶん、許せるわ。ムッとするとは思うけど」
「だから待て! ティファニー? 誰だそいつ――って、ああ! もしかして第二隊の女魔法使いか? そんな名前のやつがいた気がするが……」
「そうよ。ティファニーがシャルルが浮気したって教えてくれたの」
「よしわかった。今すぐそいつを捕まえてここに引きずって来てやる。ちょっと待ってろ。俺の潔白を証明した後で消し炭にしてやるから」
シャルルがわたしをひょいっとソファの上に下ろして部屋を出て行こうとする。
「待って待って待って! 消し炭はだめだと思うのっ!」
とんでもないことを言い出したシャルルのローブの端を掴んで、わたしはなんとか彼を押しとどめた。
でも、どういうことかしら?
シャルルの浮気の話は、ティファニーの嘘だったのかしら?
それとも、北から入った報告が、嘘だったのかしら?
とにかく消し炭はまずいから、わたしは全力でシャルルを止めることにした。
「勘違いだったのはわかったわ! シャルルは浮気をしていないのね? だったらそれでいいから、消し炭はやめてほしいの! シャルルが罪人になっちゃったら、結婚できなくなっちゃうわっ」
「それは困る」
わかってくれたらしい。
シャルルはまたわたしをひょいっと膝の上に抱き上げて、なでなでと頭を撫ではじめた。
「つまりあれか? 俺が浮気をしたと思ったから、エドウィージュは家出したのか?」
「家出じゃないわ! シャルルに会って、浮気相手から取り戻そうと思ったのよ」
「……は?」
「だから、浮気相手から、シャルルを取り戻そうと思ったのっ! なのにあとちょっとのところで攫われるんだもの。いえ、攫ったのはあなたなんだけど。……もう、わけがわからないわ」
「わけがわからないのは俺の方だ」
シャルルがわたしの頭のてっぺんに顎を乗せて、はあ、と息を吐き出した。
「要するに、エドウィージュは俺から逃げたわけじゃないんだな」
「どうして逃げないといけないの?」
「もういい。俺の勘違いだ」
あら。じゃあわたしたちは二人とも何か勘違いをしていたのね?
じゃあおあいこね?
「へへっ」
「……急にどうした」
「なんだか、こういうやりとりは恋人同士の喧嘩みたいで楽しいわ!」
「はー……」
シャルルがとっても疲れた顔になった。
おかしいわね。お互いが勘違いしていたってわかったんだから、丸く収まったんじゃないのかしら?
それとも、まだわたしたちは、はじめての喧嘩の途中ってことなのかしら?
喧嘩なんてさっさと終わらせたいから、こうなったらとっておきを教えてあげるわ。
「シャルル、シャルル」
わたしは自分の口元で筒を作るように両手を丸めると。
「あのね。あなたに閉じ込められたあのとき、とっても困ったけど、なんだか二人きりの世界みたいで、ちょっぴり嬉しくてドキドキしたわ!」
シャルルはぴくっと肩を揺らして――
「ああもう、無理」
なんて言ったあとで、わたしの唇を、ちょっと強引にふさいだ。
ふふっ、キスして仲直りなんて、恋人同士みたいで嬉しいわ!
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明日、最終話です(#^^#)









