消えたエドウィージュと彼女の変わったペット(SIDEジェラルド) 1
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時間は、エドウィージュが攫われた日の夜に遡る――
「けっ!」
そんなおかしな鳴き声と共に、強烈な猫パンチを食らって、ジェラルドは飛び起きた。
「俺は……」
宿の廊下で寝ていたらしい。
どういうことだろう。ジェラルドは確かに、エドウィージュの部屋の外で、護衛の任務にあたっていた。
夜通し護衛につくわけではないが、エドウィージュが眠る時間まではいつも待機している。
それなのに何故、廊下で眠っていたのだろう。
「今は何時だ?」
「けっ!」
エドウィージュが可愛がっている猫マノンが、部屋の扉を前足でカリカリした。
開けろと言うことだろうか。だが、護衛対象とはいえ、未婚女性の、しかも王女の部屋の扉を勝手に開けるわけにはいかない。
扉を叩いて入室の許可を得ることもできるが、エドウィージュが眠っていたら起こすことになるだろう。
しばらく葛藤していると、焦れマノンがドアノブに向かって飛び上がった。
「あ、マノン!」
この猫は図体がでかいくせになかなか俊敏だ。
ドアノブに前足をかけてあっさりと扉を開けた器用な猫は、わずかに開いた隙間から部屋の中に体を滑り込ませた。
わずかな葛藤の末に、ジェラルドもそーっと扉の隙間から部屋の中を確認する。
「……エドウィージュ様?」
そして、気づいた。
部屋の中が変だ。人の気配がない。
「エドウィージュ様⁉」
ジェラルドは勢いよく部屋に飛び込むと、室内をぐるりと見渡し、それから続き部屋の扉を叩いた。
「レーヌ! レーヌ、起きてくれ!」
扉を叩き続けていると、目をこすりながらレーヌが扉を開ける。
「どうしたんですか、ジェラルド。なんでエドウィージュ様の部屋に……」
「エドウィージュ様がいない!」
ジェラルドが叫ぶと、レーヌがカッと目を見開いた。
「なんですって⁉」
ジェラルドを押しのけて部屋に入ったレーヌは、そのままバスルームへ走って行く。
「エドウィージュ様⁉ まさかバスルームで寝ているんですか⁉ エドウィージュ様⁉」
そんなことを叫びながらバスルームへと消えたレーヌは、すぐに顔を真っ青にして戻って来た。
「ジェラルド、大変です。エドウィージュ様がいません!」
「だからさっきからそう言っている! というか、おかしいんだ。俺は確かにエドウィージュ様の部屋の外で護衛任務についていた。だが、途中から記憶がない」
そう、気がついたら廊下で眠っていた。
レーヌは顎に手を当てて考え込む。
「そういえば、わたくしも急に眠くなって横になった気がします。エドウィージュ様がお眠りになるまでは起きているつもりでしたのに……」
レーヌの身にも妙なことが起こったらしい。
だが、今はそれを考えているときではない。エドウィージュを探さなくては。
「とにかく、宿の周辺を探すぞ!」
「わかりました! 宿の従業員にも連絡して――」
「けっ! ――無駄だ」
エドウィージュのベッドのあたりから聞こえてきた変声期前の子供のような声に、ジェラルドとレーヌは弾かれたように振り向いた。
そこには、くんくんとベッドの匂いを嗅いでいるマノンがいる。
(……空耳か?)
今、子供の声が聞こえた気がするのだが。
まさかマノンではあるまい。いくら変な鳴き方をする猫でも、あのようにはっきりと言葉を発することはないはずだ。
「とにかく、エドウィージュ様を探すぞ!」
「だから無駄だっつってんだろ」
「「⁉」」
今度ははっきりと子供の声が聞こえた。
マノンが顔を上げ、青と緑の綺麗なオッドアイをすーっと細める。
「あの陰険魔法使いが連れて行きやがった。オレを締め出してな。マジむかつく。絶対探し出して、今度はオレが目の前でかっさらってやる!」
「マ、マノン?」
「あん?」
ものすごく柄の悪い、だが可愛らしい子供の声でマノンが言う。
(俺は、頭がおかしくなったんだろうか?)
猫が喋っている。
レーヌなんて目を見開いたまま魂を飛ばしたような顔になっていた。
「あの陰険魔法使い、はじめて会った時から気に入らなかったんだ。くそっ! オレのエジュを勝手に連れて行きやがって。浮気なんてしやがったって聞いたから、エジュが愛想つかすのを楽しみに待ってたっつーのに、あんにゃろー、まだ全然諦めてないじゃねーか」
「マ、ママ、マ、マノン?」
「だからなんだよ!」
しゃーっと毛を逆立ててマノンが威嚇してきた。
相当機嫌が悪いようだが、今はそれどころじゃない。
「マノン、なんで……なんで喋っているんだ⁉ 猫って喋るのか⁉」
「馬鹿かお前。猫が喋るわけねーだろ」
じゃあ目の前のお前は何なんだとジェラルドは叫びたくなった。
わけのわからない状況を前に混乱中なのに、その混乱をもたらした本人(本猫?)に冷静な顔で馬鹿にされるのは納得いかない。
「は、はは、ははは、わたくし、とうとう幻聴が……エドウィージュ様がいなくなって、きっと精神崩壊が……」
「落ちつけレーヌ! 俺にもマノンが喋っているように見える! あの猫はきっと喋るんだ! もともと変だったから、きっと変な猫に違いない!」
「失礼だなおい」
マノンはベッドの上に座ると、後ろ足でかりかりと首の後ろを掻く。その仕草は間違いなく猫だ。外見も猫だ。だが中身は何か違う!
「マノン、お前は何なんなんだ!」
すると、マノンはニッと笑う。
「オレ様は由緒正しいケット・シー様だ! 頭が高いぞ!」
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