王女は戸惑う 5
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彼が、わたしを膝の上に抱き上げて髪を梳くように撫でている。
ここに閉じ込められて、どのくらいが経ったかしら?
もう二週間くらいは経ったかしらね?
今の生活は絶対におかしいと思うのだけど、だんだんと慣れてきた自分が怖いわ。
そして――日に日に、彼に対するドキドキが大きくなっていくのも、また怖いの。
……わたし、もう帰れないのかしら?
きっとみんな心配しているわね。
レーヌもジェラルドもお父様もお母様も、お兄様もお姉様も、きっとわたしを探しているわ。
でも、シャルルは――探していないかもしれないわね。
だって、シャルルはすっごい魔法使いですもの。
もしもここがブラン王国から遠く離れたところでも、きっと見つけられると思うの。
だけど見つけてもらえないから、シャルルはわたしのことが……いらなくなったんだわ。
すごく胸が痛くて、苦しくて、だから甘やかしてくれる彼に縋りたくなってくる。
心が弱っている時に甘やかすのは、ずるいと思うの。
だって、ここから出られて、シャルルに会って、そしていらないって言われるくらいなら、このままここで一生を過ごしてもいいかもしれないなんて、ちょっと考えちゃうの。
ここにいたら、つらい現実なんて見なくていいわ。
彼も、こうしてわたしを甘やかしてくれる。
日に日に彼に対するドキドキが大きくなっているから、このまま長い時間が経てば、シャルルより彼のことが好きになっちゃうかもしれないわ。
レーヌやジェラルド、お父様たちがいないのは寂しいけれど――どうやっても逃げることができないのなら、諦めもつくもの。
仕方がないわって自分自身に言い訳できる。
仕方がないわって、目の前の彼に心を預けられる。
……とってもずるい考え方ね。
でも、ここに彼と二人きりでいると、ついそんなことを考えちゃうの。
「どうした?」
わたしが落ち込んでいるのに気づいたのか、彼が優しく問いかけて来る。
彼はわたしを攫ったひどい人なのに、とっても優しい。
「なんでもないわ」
「眠たいなら、寝てもいいぞ」
「……そうね、眠たいのかもしれないわ」
よくわからない。
だけど、彼の鎖骨のあたりに頭を預けて目を閉じると、自然と睡魔が襲って来る。
もういっそ、流れに身を任せて見ようかしら。
彼に攫われたのも運命だったってことにして。
……そうしたらわたしは――楽に、なれるのかしら?
彼が頭を撫でてくれるのが気持ちいい。
すーっと意識が夢の世界に引っ張られる。
――あなたが邸にいてくれるだけで俺は安心します。どうぞそのまま俺の帰りを待っていてください。
ふと、シャルルがくれた手紙を思い出す。
ごめんなさいシャルル。わたしは悪い婚約者だわ。
だって……あなたの帰りを、待っていてあげられなかったんだもの。
彼の腕の中で眠ってしまったわたしは、気がついたらベッドの上にいた。
窓の外がオレンジ色に染まっているから、今は夕方ね。
彼とおしゃべりしていたのがお昼ごろだから、何時間も寝ちゃったみたい。
……大変ね。夜、寝られなくなりそうだわ。
ベッドの上に上体を起こして、ぼんやりと部屋の中を見渡す。
彼の姿は――ないわね。
まあ、頻繁には会いに来てくれるけど、ずーっと部屋の中にいるわけじゃあないものね?
彼がどこの誰なのかはわからないけれど、四六時中わたしのそばにいられるわけでもないんでしょう。
……べ、別に、ずっとそばにいてほしいわけじゃあ、ないけどねっ!
ただ、一人は心細いから、早く来てくれないかしらって思う。
……きっと、そろそろ夕食を運んできてくれるわよね?
のそのそとベッドから出てソファに移動しようとしたときだった。
「けっ!」
聞き覚えのある変わった鳴き声に、わたしは大きく目を見開く。
ハッと振り向けば、透明な鳥籠の外。
いつの間にか開いていた窓の枠のところに、真っ白な猫が座っていた。
「……マノン?」
「けっ!」
マノンは毛玉がのどに詰まったような声で鳴く。
そして――
「待て! エドウィージュ‼」
バタンと大きな音を立てて扉が開くのと、マノンがぴょんとわたしの腕の中に飛び込んできたのは同時で。
その直後、真っ白に塗りつぶされていく視界の中で、彼が泣きそうな顔でわたしに手を伸ばしたのが、見えた。
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