王女は戸惑う 4
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それからさらに三日が経って、彼が薔薇の花束を抱えてやってきた。
ローテーブルの上の薔薇がだいぶしおれて来たからだろう。
花瓶の薔薇を入れ替える様子を見ていると、すごく懐かしい気持ちになって来る。
「あのね、わたし、ある人にこれと同じような薔薇をもらったことがあるの」
つぶやくと、彼はぴたっと動作を止めた。
「……それで?」
「この薔薇みたいにすっごく綺麗な赤い薔薇でね? とってもたくさんもらったの。だから嬉しくて、知り合いの魔法使いに、永久保存の魔法をかけてもらったのよ!」
「永久保存の魔法……?」
「あら、知らない? あの魔法をかけると、花が枯れないの! だからわたしが住んでいた家には、これと同じような薔薇がたっくさんあるのよ」
彼は驚いたような顔をしてわたしを見つめてきた。
その頬が若干赤いような気がするのは気のせいかしら。
「君は薔薇に……薔薇ごときに、永久保存の魔法をかけたのか」
「かけたんじゃなくてかけてもらったんだけど、そうよ? だって、嬉しかったんだもの」
何と言っても、シャルルにもらったはじめてのプレゼントだ。記念にずっと取っておきたい。
目の前の彼にうっかりドキドキしてしまうことはあっても、やっぱりシャルルのことを考えると心がぽかぽかと温かくなる。
だからわたし、シャルルへの気持ちがなくなったわけじゃ、ないと思うの。
目の前の彼にドキドキしてしまうのは問題だけど……自分でもどうすることもできない不可抗力ってことで、許してくれないかしら?
「君は……嬉しかったのか」
「当たり前でしょう?」
好きな人からのプレゼントが嬉しくない女はいないわ。
彼はじっとわたしを凝視して、それからぽつりと言う。
「……じゃあどうして逃げた」
「え?」
「なんでもない」
ぷいっと横向いて、彼は薔薇の花を生け直すと、しおれた花を持って部屋を出て行ってしまった。
新しくなった薔薇を指先でつついて、去年のことを懐かしむ。
あともうちょっとで、シャルルが帰ってくるはずだった。
だからようやく、愛する人と結婚できるはずだった。
ブーケには永久保存の魔法をかけた、シャルルにもらった赤い薔薇を使おうかしら、なんて考えたりして。
あと、一生懸命編んだ、猫の柄のベールをかぶりたいけど、そう言えばシャルルにまだお伺いを立てていなかったわなんて考えて。
結婚式のドレスに身を包んだわたしを、シャルルはどんな表情で見つめてくれるかしら、なんて。
……シャルルに、会いたいなぁ。
だけどシャルルは今頃、浮気相手の女性と仲良くやっているのだろうか。
わたしのことはもういらなくなった?
だから、探しに来てくれないのかしら?
……それとも、うっかりシャルル以外の男の人にドキドキしちゃったから、罰が当たったのかしら。
でも、わたしだってよくわからないの。
わたし、今まで他の男の人にドキドキしたことなんて一度もないのよ?
護衛のジェラルドをはじめ、パーティーで会った貴族男性にも、公務で会った男性にも、誰一人ときめいたことなんてなかったわ。
なのに、どうして彼にだけはドキドキしてしまったのかしら。
あれかしら。ファーストキスを奪われたからかしら。
だとしたら、わたしはキス一つ奪われただけでその男性にドキドキしてしまうような、浮気者な性格をしていたのかしら。
シャルルが好きよ。それは変わらない。
それなのに、わたしはわたしのことがちょっとよくわからない。
……お願いだから、今すぐシャルルがここに来て、わたしを攫っていってくれないかしら?
そうしたらきっと、わたしはうっかり他の男性にドキドキしたりしないわ。
シャルルだけを見つめていられるわ。
わたしを攫ってここに閉じ込めた彼のことなんて――すぐに、忘れられると、思うわ。
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