王女は戸惑う 1
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
「い、言っておくけど、あなたが悪いんだからねっ!」
わたしが頭突きをかましたあと、ぷるぷると震えて動かなくなった男に、わたしはちょっと強がってみた。
本当は、頭突きの勢いをつけすぎたかしらって心配になってきたのだが、悪いのは男の方だ。だって、わたしをソファに押し倒して、また、キッ、キスを! しようとしてきたんだもの!
……わたし、まだ許していないのよ?
ファーストキスを奪われた恨みは健在だ。
シャルルのために大事に大事に取っておいたファーストキスなのに、この男に奪われた。
一回くらいなら事故ってことで記憶を中から抹消できる……かもしれないが、さすがに二回目はない。絶対に、ない!
……この唇は、もう絶対に絶対に、シャルル以外には許さないんだから!
ソファに押し倒された体勢のままだからカッコつかないけど、気持ちだけは強気でいるわ。
彼はしばらく動かなかったけど、やがてゆっくりと上体を起こしてわたしを解放してくれた。
だからソファの端っこまで逃げて、クッションを盾にしてみたわ。
すると、彼が傷ついたような顔をこちらに向けて来たから……、なんだか悪いことをした気になって来る。
「赤くなっちゃったわね」
あっちが悪いとはいえ、思い切り頭突きをしたのはやっぱりまずかったかしら。
クッションの盾を抱えたまま、わたしはそろそろと彼との距離を縮めた。
下から覗き込んで、赤くなっている額に触れてみる。
彼が小さく震えたから痛かったのかもしれないと、ぱっと手を離すと、手首を取られた。
そのまま彼がわたしの手を自分の頬に持って行く。
……頬には頭突きしていないと思うの。
なんで頬にわたしの手のひらをくっつけるのかしら?
そして、なんでそんな熱っぽい視線でわたしを見つめて来るのかしら?
困るわ。あんまり見つめられると心臓がおかしくなるんだもの。
ドキドキしはじめた鼓動に、わたしは戸惑ってしまう。シャルル以外の人にドキドキするなんておかしいはずなのに、自分の意志では心臓を落ち着けることができない。
「い、痛く……ない?」
「ああ。王女は? 赤くなってる」
彼が、わたしの手首をつかんでいない方の手でわたしの額を撫でる。
撫でられても痛くはないけど、どうやらちょっぴり赤くなっているらしい。
「わ、わたし、石頭だから、痛くはないわ」
「そうか。それならいい」
なでなでと額を撫でられて、わたしは落ち着かない気分になる。
わたしのファーストキスを勝手に奪ってこんなところに閉じ込めたくせに、どうしてその手つきは優しいのかしら。
「ねえ、ここはどこ?」
「だから、君が知る必要はない」
少し雰囲気が丸くなったから教えてくれるかしらって思ったけど、やっぱり教えてくれないみたい。
でもどうしましょう?
きっと、レーヌもジェラルドも心配しているわ。
せめてわたしは無事よって知らせたいんだけど、この様子だと無理そうね。
……あら、ちょっと待って? 閉じ込められているこの状況は、無事って言うのかしら?
よくわからない。
今のところ、キスされる危機はちょこっとだけあるけれど、それ以外に危害を加えられそうな気配はないから、無事ってことでいいのかしら?
でも、閉じ込められているから無事じゃないのかしら?
「あ、あのね? わたし、王女だから、いなくなったらとっても大騒ぎになると思うの」
「だから?」
「あなたにもきっと迷惑がかかるわ」
「大丈夫だ、ここには誰も入って来られない」
なんだか、微妙に話がかみ合ってない気がするわ。
ここには誰も入れないから大丈夫って、どういうことかしら? 何が大丈夫なの?
「あの、あのね?」
わたし、婚約者に会いに行かなくちゃいけないの。
婚約者を浮気相手から奪い返しに行くのよ。
だから、だから、いつまでもここにはいられないの、と。
……言いたいんだけど、そんなに見つめられたら言えないの。
どうして彼は、わたしのことをそんなに切なそうな目で見るのかしら。
わたしは彼に何をしたのかしら。
閉じ込められているわたしの方が被害者だと思うのに、なんだかわたしが悪いことをしている気分になって来るのは、どうしてなのかしら。
「ここには誰も来られない。君は生涯ここで暮らすんだ。――俺と」
無茶苦茶なことを、とっても切なそうな顔で言う彼に、わたしは何も言えなくなってしまった。
ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ









