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籠の鳥王女は愛されたいので好きにすることにした  作者: 狭山ひびき
籠の鳥王女と魔法使い

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籠の鳥の王女(SIDEシャルル) 1

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 俺――シャルル・サティがブラン王国の第三王女エドウィージュに会ったのは、九歳の時だ。エドウィージュは当時まだ五歳で、天真爛漫を絵に描いたような女の子だった。


 当時の俺はサティなんて姓は持っておらず、ただの「シャルル」だった。孤児院出身の、魔法使い見習のシャルルだ。

 俺が魔法師団の老師ダヴィド爺の弟子になったのは、本当に偶然だったと思う。


 ダヴィド爺は息子が一人いるが、魔法の才能に恵まれていなかった。

 そこで爺は、自分が死ぬ前に弟子を一人取ろうと、国中を旅して魔法の素養がある人間を探していたのだ。

 そこで目をつけられたのが、生まれつき魔力の多かった俺だった。

 魔力と言うのは持っていても、使い方を知らなければ役に立たない。

 というか、使い方を知らない場合はデメリットも大きい。

 特に子供の頃は、成長に回されるエネルギーが魔力を生み出すように取られるから、他と比べて成長が遅くなる。俺の場合もそうだった。


 年齢の割に他と比べて小柄でひょろっとしていた俺は、爺に、魔法を使えるようにならなきゃ小さいままだって脅された。

 俺だって男だ。孤児院の他のやつらに「ちび」なんて呼ばれていたら腹も立つしプライドも傷つく。

 俺が爺の弟子になるって決めたのは、でかくなりたい。ただそれだけだった。


 孤児院にいたときの俺は知らなかったんだが、ダヴィド爺は魔法師団の老師という立場の偉い爺だった。

 てっきり孤児院で暮らしながら爺の弟子になると思っていた俺は、あれよあれよと地方から王都の城へ連れて行かれた。

 そして、爺の部屋で一緒に生活をすることになったんだが――あれはある意味、弟子というより爺の介護要員だったんじゃないかって今でも思う。


 あの爺はとにかく片づけができない爺だった。

 加えて生活力が皆無で、飲食を忘れるわ同じ服を何日も着続けるわ、口酸っぱく言わなければ平気で数日風呂にも入らないような、とにかく、魔法以外はダメダメな爺だ。


 俺がダヴィド爺の弟子になって、一番感謝したのは、多分爺の息子のアリスティドだろう。

 アリスティドは爺の息子とは思えないくらいしっかりした良識ある人物なんだが、爺の生活を心配して口を出しし続けたせいで、爺から「面会は三日に一度」なんていう意味のわからない宣言を食らったらしい。


 しかも、あくまで「面会」だから、部屋の片づけやなんだと世話を焼くことができない。せいぜい食事を運ぶくらいで、ひどいときは部屋にも入れてもらえないと嘆いていた。

 そんな状態だから、俺が爺の世話を焼きはじめると、会うたびに滅茶苦茶感謝されて菓子だなんだと差し入れをもらったものだ。


 ……どうせ弟子になるのなら、俺はアリスティドの弟子になりたかった。まあ、アリスティドは魔法の素養はないんだが。


 俺がダヴィド爺の弟子になったのは八歳の時。

 最初は魔力のコントロールがメインで、簡単な魔法しか教えてもらえなかった。

 ついでに言えば、毎日爺の部屋の片づけやなんやと忙しくて、目が回るほどだった。


 そんなある日のことだ。

 あれは、俺が九歳の時だ。

 爺の部屋の片づけを終えたあと、身だしなみを整える暇もなく魔法の訓練場に向かおうとしていた俺は、城の庭のブナの木の下で、ぴょんこらぴょんこらと飛び跳ねている子供を見つけた。

 飛んだと言っても数センチしか浮かんでいない。

 そのくせ、飛び跳ねながらその女の子は「あとちょっとなのにぃ~」とか意味不明なことを言っていた。


 ふわふわの金髪に、赤いリボンが揺れている。

 上等な子供用ドレスに身を包んだ彼女のことを、俺は知っていた。遠目で見たことがあるからだ。

 国王夫妻と兄や姉たちに溺愛されている第三王女エドウィージュである。


 何かと俺を気にかけてくれるアリスティドからは「エドウィージュ様を絶対に泣かせてはならない」と忠告を受けていた。

 どうやら少し前にどこぞの伯爵家か侯爵家かのガキがエドウィージュを揶揄って泣かせて、国王夫妻と兄王子たち、姉王女たちが揃って激怒するという大事件が起こったそうだ。

 特に第一王女アデライドの怒りがすさまじく、「決闘だ‼」とそのガキは木刀でぼこぼこにされたらしい。以来、同年代の貴族の子女からはエドウィージュは恐れられているという。本人ではなく、周囲の反応がヤバいからだ。


 だから、俺も充分に注意するようにとアリスティドに言われていた。俺は口が悪いから、うっかり泣かせないようにと、くどいくらいに言われた。

 それは覚えていたんだが――いや、突っ込みたくもなるだろう?

「あとちょっとなのにぃ~」とか言って手を伸ばしているが、遥か頭上にいる子猫にはエドウィージュの身長が五倍になったところで届かないだろう。


「いや、全然ちょっとじゃないと思う。かすりもしてない」


 うっかり突っ込むと、エドウィージュがむっと口をとがらせて振り返った。

 そして、大きな緑色の目をぱちぱちとしばたたく。


「だぁれ?」


 あ、可愛い。

 不覚にも四歳も年下の女の子の顔に見とれた俺は、それを誤魔化すように返した。


「俺のことはどうだっていいだろう。それより、早くしないと落っこちそうだぞ」

「そうだった!」


 ブナの木のてっぺんのあたりに、真っ白な子猫がいる。

 いや待て。


 ……おい、あれは本当に猫か?


 見た目は猫だ。子猫で間違いない。だが何かが妙だ。あれはなにか、普通じゃない。


「マノン、がんばってー! 今助けてあげるから!」


 違和感はあったが、それを考えている暇はなさそうだった。

 あの猫は「マノン」という名前のようだ。エドウィージュが必死に叫んでいる。


「あれはあと数分も持たないな」

「そんなっ!」

「ほら、足が震えている。落ちるぞ」


 高いところが怖いのか、それとも枝にしがみついているのが限界になったのか、俺の目には今にも猫が落ちそうに見える。


 ……あの猫が落ちて死んだら、この王女は泣くな。


 そうすると、国王夫妻以下エドウィージュの家族が総出で俺のところに殴り込みに来るのだろうか。別に俺が泣かしたわけじゃないと思うんだが、アリスティドに気をつけろと言われている以上安心はできない。


「仕方な……って、おい、何をするつもりだ」

「何って、上って助けるのよ!」


 泣かれると厄介なので助けてやるかと、ダヴィド爺に爺がいる前以外での使用を禁止されている魔法を使おうとしたときだった。

 エドウィージュがブナの木の幹にがしっとしがみついた。

 小さな子供が両手両足を大きく広げて木の幹にしがみつく姿に、俺は唖然とするしかない。


 ……その体勢で、どうやって木に登ると?


 この王女は頭が弱いのだろうかと疑いかけて、まだ五歳児だったと思いなおす。五歳児なんてこんなものだろう。たぶん。


「馬鹿なことするな。お前まで下りられなくなるぞ。まあ、それ以前に登れないとも思うが」

「しつれいね! 木登りは得意なのよ!」

「王女が木登りが得意でどうするんだ」


 元気なのはいいことだが、木登りなんてして怪我でもしたら、怒られるのは周りの大人だ。お転婆もほどほどにしてほしい。


 ……まあ今は、あの猫を助けたくて必死なんだろうけどな。


 泣きそうなのを一生懸命我慢しているのがわかる。

 目が潤んでいるが、必死に歯を食いしばって耐えているのだ。猫を助けるために。


 ……国王陛下たちが溺愛したくなるのもわかるな。


 弱そうに見えて、芯が強く、そして強がり。

 泣いて助けてと叫べばいいのに、必死で耐えて前を向き、自分でどうにかしようと踏ん張っている。

 その頑張りが見ていて危なっかしくて、ついつい抱きしめて甘やかしたくなるのだ。


「わたしはあなたのことを知らないわ‼ なのにあなたがわたしを知っているなんて、ずるいわよ!」

「シャルルだ。いいから幹から手を放せ。ほら」


 どうやら俺だけがエドウィージュのことを知っていたのが気に入らないのか、よくわからない理屈をこねだした。名前を短く名乗り、これ以上の押し問答は時間の無駄だと魔法を行使する。


「マノンがおちちゃうっ!」

「いいから黙ってろ。お前が騒げばあの猫が落ちるぞ。――風よ」


 ダヴィドの爺からはまだ勝手に使うなと止められている魔法。

 魔力操作に慣れていない子供時代は、一歩間違えると魔力暴走を起こすらしい。

 これはばれたらゲンコツだなと思いながら、けれど、泣きそうなエドウィージュを前に助けないという選択肢はなかった。


 マノンの小さな体がふわりと風に浮き、ゆっくりと地面まで降りて来る。

 すると、小生意気な猫は、助けてやったにも関わらずフシャーッと俺を威嚇してきやがった。

 たぶんだが、この小さな体でエドウィージュを守ろうとしているんだろう。


 ……やっぱり違和感があるな。本当に猫か?


 怪訝に思いながらマノンを見下ろしていると、満面の笑みを浮かべたエドウィージュがちょこんとドレスの裾をつまんだ。


「ええっと、ありがとう、シャルル! あなたはわたしのヒーローだわ!」


 その言葉に、俺の頬が熱くなる。

 そんなの、はじめて言われた。

 孤児院ではチビだのガリだの言われて馬鹿にされて、ダヴィド爺の弟子になってからも、城のメイドや使用人連中は俺のことを小間使いみたいに思っている。

 魔法師団の連中なんかは、俺みたいなチビでガリな孤児が老師の称号を持つダヴィド爺の弟子になったのが気に入らないのか、顔を合わせれば嫌味を言われる。


 俺の人生の中で、誰かに感謝されるなんて数えるくらいしかない。

 それこそ、爺の面倒を見ていることでアリスティドに感謝されたくらいのことだ。


「おい、俺が魔法を使ったことをじじいには言うなよ。本当はまだじじいがいないところで使っちゃダメなんだ」


 俺は照れ隠しに、つっけんどんにそう返した。


「じじい?」


 エドウィージュが不思議そうな顔をしている。

 きょとんと首を傾げたエドウィージュは天使がいたらこんな子だろうかと思うほどに可愛くて――たぶん俺は、あの瞬間に()()()のだろう。


 ……あの王女が欲しいな。


 それは、生まれて初めての強い欲求だった。

 なんとなくでかくなりたいと爺の弟子になって、これまたなんとなく爺の世話を焼きながら生きてきた俺の、はじめての願望。


 ……どうやったら、手に入る?


 俺は孤児だ。

 孤児が王女を娶るなんて土台無理な話である。

 だったらどうする?

 地位を手に入れるしかないだろう。王女が降嫁されてもおかしくないほどの、でかい地位を。


「じゃあな、王女!」


 絶対に手に入れる。

 そして手に入れた後は、全身全霊をかけてどろどろに甘やかして守るのだ。

 俺は訓練場に向かって駆けだしながら、エドウィージュを手に入れるために上に行こうと心に決めた。


 上に上に。


 誰にも文句を言われないほどに――たとえ文句を言われても力でねじ伏せられるほどずっとずっと上に行くのだ。




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