まだ砕けていないので砕けに行きます 5
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それは、ようやく明日、シャルルのいる北の砦付近に到着できるという日の夜のことだった。
長い道のりも、魔道馬車を使えばあっという間だ。
ほとんど疲れることもなく、わたしはその夜に取った宿で長い時間お風呂に入って、全身をぴっかぴかに磨き上げた。
レーヌにお願いして、髪もいつもより念入りに洗って艶々にしてもらったわ。
だって、ついに明日、シャルルに会えるんですもの。ちょっとでも綺麗って思ってもらいたいじゃない?
……べ、別に、見たこともない浮気相手の人に張り合っているわけじゃないわよっ?
そりゃあ、その人よりもわたしの方が綺麗って思ってほしいな~って思うけど、見たこともない人相手と張り合うのは無理があるじゃない?
わたしが逆立ちしたって叶わない美人かもしれないし。
そうなったらもう、今度は内面とガッツで頑張るしかないのよ。
……大丈夫よ。お姉様がお義兄様を落とした恋愛バイブルがあるんだもの!
ファヴィエンヌお姉様は言っていたわ。女は度胸とガッツと押しの強さと胸の大きさで勝負なのよ! 胸の大きさはわたしはちょっと武器になるほどないから、その他の三つで頑張るわ!
レーヌに髪の毛を艶々にしてもらって、しっかりとお肌を保湿して、わたしは今日は早めに就寝することにした。たくさん寝るとお肌が綺麗になるってお姉様が言っていたからね!
「レーヌ、あとはもう自分一人でできるわ。レーヌも疲れているから、部屋に戻って大丈夫よ。わたしはもう少しお風呂に浸かってから上がるわ」
「そうですか? あんまり長風呂をしてのぼせないでくださいね? 何かあれば大声を出してください。隣の部屋におりますので、すぐに飛んでまいります」
「もう、大袈裟ね。でもわかったわ」
さすがにのぼせるほど長風呂はしないわよと笑って、レーヌを見送る。
あとはのんびりバスタブにつかるだけだし、その間レーヌを待たせておくのも可哀想だもの。レーヌも早くお風呂に入って休みたいでしょうし。
この部屋はジェラルドが手配したセキュリティのしっかりしている宿の最上階。
内扉で繋がっている部屋に侍女の控室があって、そこをレーヌに使ってもらっているから、大きな声を上げたら聞こえるけれど……大声でレーヌを呼ぶような不測の事態なんて、そうそう起きないと思うのよ。
続き部屋じゃないけれどジェラルドも隣の部屋にいるし、デリクもジェラルドの隣の部屋を使っている。
最上階の部屋はわたしたちが使っている部屋以外ないから、この階に知らない人が上がってくることはない。
……最上階に続く階段には、宿が雇っている見張りが立っているから、関係ない人は立ち入りできないのよね。
だから、とっても安全なの。
「……なんだかドキドキしてきたわ!」
今日が終わったら、ついにシャルルに会えるのね。
突然訪れて、シャルルは怒ったりしないかしら?
でも、浮気をしていたんだから、わたしの方こそ怒っていいのよね?
ああでも、わたしが怒ったら、シャルルに面倒くさい女って思われるのかしら?
……ここは寛容な大人の女性を演じるべき? でも、浮気しても許してくれる女って思われるのは嫌だわ。どうするのが正解かしら?
怒るべきか否か、それが問題ね。
浮気を咎めるべきなのかどうなのか。考えてもすぐに答えが出なかったので、わたしはその問題はひとまず置いておくことにした。
「まずは……そう! 挨拶からよ。お仕事お疲れ様ってまずは労うの。そのあとで、突然会いに来てごめんなさいって謝るべきよね。で、会いたかったのって伝えて……えーっと、どうしよう?」
ファヴィエンヌお姉様の恋愛バイブルによれば、長期間会っていなかった恋人に再会したら、抱きしめて熱烈なキスをするって書いてあったけど、それはわたしたちにはまだ早いと思うの。
だって、最初のキスはやっぱりシャルルからしてほしいじゃない?
わたしから抱き着いて……っていうのは、もう少し上級者コースよね。もっと上級者になってから試すわ。
……困ったわ。
シャルルに会ってどうするか、全然考えてなかった。
シャルルに会いに行ってわたしをもう一度好きになってもらうには、一体どうしたらいいだろう。
……恋愛バイブル、お邸に置いて来ちゃったわ! どうしましょう⁉
こういう時こそ必要なのに、持って来ていなかった。わたしの馬鹿ーっ!
「仕方がないわ。会ってから考えましょう!」
さすがに行ってそうそう、邪魔だから帰れなんて言われないわよね。……たぶん。
悪い方向に考えると気分が落ち込みそうだから、わたしはこれ以上考えないことにした。お肌のために、お風呂から上がってさっさと寝ましょう。
バスタブから出て、わたしは脱衣所に置かれていたタオルで体を拭くと、ナイトウェアに着替える。
それからタオルで髪の毛を拭いた後で、用意されていた魔道具の小型温風器で髪の毛を乾かした。
わたしの髪、ふわふわしているから、しっかり乾かして寝ないと朝爆発しちゃうのよね。
「こんなものかしら?」
レーヌが綺麗にしてくれたから、乾かしたあとの髪もしっとり艶々よ。
お肌も化粧水でしっとりさせたし、あとは明日にそなえて寝るわよ!
と……。
あとは寝るだけなのに変に気合を入れてバスルームから出たわたしは、ドアノブに手をかけたまま固まった。
だって――
「……誰?」
部屋の中には、紫色の髪をした、とーっても背の高い男の人がいたからだ。
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