まだ砕けていないので砕けに行きます 3
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ダヴィドおじいちゃんがサティ侯爵邸の魔法を解いてくれて二日後。
急いで荷物をまとめたわたしは、お父様たちに気づかれないように、夜に邸を出発した。
メンバーはわたしとレーヌ、ジェラルド、マノン、そして運転手のデリクの四人と一匹よ!
魔道馬車は馬がついていないだけで、馬車と同じ形をしている。
ただ、御者台がなくて、室内の区切られた別の部屋で操縦者が馬車を操作するの。
大きさは馬が引く馬車よりも二回りくらい大きいかしら?
だから中はゆったりとしていて、揺れもほとんどなければ座面もふっかふかで柔らかくて乗り心地がいい。
そしてサティ侯爵家所有の魔道馬車はもっとすごいところがあって、なんと、空調の魔道具までつけられているの。
だから室内は暑くもなく寒くもなくすっごく快適なのよ!
あまりに快適だから、マノンったらすぐに座面の上にでろーんって横になってくぅくぅ寝はじめちゃったわ。
「いいですか、エドウィージュ様。魔道馬車の中は結界が貼られていて安全だとは言え、途中で宿を取ります。宿に泊まるときは魔道馬車の外に出るのですから、その分危険度は上がります。俺も目を光らせておきますが、充分に気を付けてくださいね。知らない人について行ってはいけませんよ?」
「ええ、わかったわ!」
でも、ブラン王国は平和な国だし、北へ向かう道中に使う宿も、特に治安のいい場所を選んだから大丈夫だと思うの。
なんて気を抜いたら駄目ね。
わたしにもしものことがあったら、ジェラルドの首が飛ぶもの。物理的に。
専属の護衛って、そう言うことなのよ。文字通り護衛対象を命がけで守るの。万が一のことがあったら責任を取らされるのよ。その分、王女の護衛ともなれば地位は高いし、お給料も破格なんだけど。
これに関しては、お父様がいくら優しくてもどうにもならないのよね。だって、そういう契約なんだもの。
だからね、守られる側にも覚悟が必要なのよね。
お城で暮らしていた時もわたしが不用意に出歩かなかったのはこういう背景もあるんだけど――ごめんね、今回は我儘を言っちゃって。
ジェラルドが責任を取らされちゃったら大変だから、わたしは宿は取らずに北に到着するまでずっと魔道馬車の中ですごしましょうって提案したんだけど、それでは疲れが取れないからってレーヌとジェラルドに却下された。
まあ、いくら魔道馬車が快適でも、お風呂とかはないものね。
あと、護衛とはいえわたしやレーヌとジェラルドが同じ馬車の中で寝るわけにもいかないから、宿はやっぱり必要だわ。
……初日は、宿には止まらないけどね!
なんたって、夜に出発だから!
そのかわり、今日はちょっと早めに宿に泊まるのよ。
ジェラルドがわたしとレーヌに休んでいいと言ってくれたから、眠くなったら仮眠を取らせてもらうわ。
「夜にこそこそとお出かけするのって、悪いことをしているみたいでドキドキするわね!」
「陛下たちに黙って出た時点で、広い意味で悪いことには該当すると思いますよ」
レーヌがくすくすと笑う。
「でも、エドウィージュ様がお元気になられてよかったですわ」
「それなのよ! 実は今日まで、お姉様に頂いた恋愛バイブルにいい対処法が書いてないかしらって読み漁っていたんだけど、そうしたらね、こう書いてあったの。『夫が浮気した場合は、正妻の意地を見せつけるべし! 決して負けてはいけない』って。だから、意地を見せつけて見ようと思って」
「……あの、ファヴィエンヌ様がエドウィージュ様に残された本ですが、本当に大丈夫な本なんでですか?」
うんうんと頷くレーヌの横で、ジェラルドが不安そうな顔になった。
「大丈夫よ。だってあの恋愛バイブルのおかげで、お姉様はお義兄様と結婚できたんだもの」
「いえあれは、ファヴィエンヌ様が力推しで……なんでもないです。そうですね。きっとその本は正しいのでしょう」
レーヌに睨まれてジェラルドが視線を横に逸らしつつ言う。
そうよね? お姉様はこの恋愛本たちのおかげで結婚できたわって言っていたもの。だからきっと、あの本を参考にすれば、わたしもシャルルの心を取り戻せるはずなのよ。正妻(まだ婚約者だけど)の意地で、絶対にシャルルを返してもらうわ!
シャルルだって、一度はわたしのことを好きになってくれたはずだもの。だって結婚を申し込んできたんだからそういうことでしょ?
だから、頑張ってその気持ちを思い出してもらうのよ!
落ち込んでなんて、いられないわっ!
「って、あ! ティファニーにお出かけするって言い忘れちゃったわ! 大丈夫かしら?」
「いいんじゃないですか? サティ侯爵家の使用人が適当に追い払ってくれますよ」
レーヌがとっても投げやりに言う。
わたしは心配になったけど、サティ侯爵家の使用人たちはみんな優秀だから、確かにティファニーが来ても丁重にお断りしてくれると思うわ。また王都に帰ったら、お土産を渡しつつ黙って出かけてごめんなさいって謝ろう。
夜の王都の道を静かに進んでいた魔道馬車は、王都の北門を出てさらにまっすぐ進んでいく。
……思えばわたし、王都から出たのって、三年前に家族で避暑に出かけた以来だわ!
数えるほどしか王都から出たことのないわたしは、真っ暗でほどんと何も見えないと知りつつも、馬車の窓の帳を小さく開けた。
……なんだか、籠から出してもらった鳥の気分よ!
わくわくどきどきするわ!
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